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Review: Various Artists, Mute Audio Documents «1978-1984»
2007/07/22
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
(Mute, Audiobox1, 2007, 10CD box set)
CD1,2)Mute Audio Document 1 «1978-1981» (Mute, CDStumm261, 2007, 2CD) CD3,4)Mute Audio Document 2 «1982» (Mute, CDStumm262, 2007, 2CD) CD5,6)Mute Audio Document 3 «1983» (Mute, CDStumm263, 2007, 2CD) CD7,8)Mute Audio Document 4 «1984» (Mute, CDStumm264, 2007, 2CD) CD9,10)Mute Audio Document 5 «Rarities» (Mute, Audiobox1, 2007, 2CD)
The Normal, Silicon Teens, Fad Gadget, D.A.F. (Deutsch-Amerikanische Freundschaft), Non, Smegma, Robert Rental, Depeche Mode, Boyd Rice, Die Doraus Und Die Marinas, Yazoo, Liasons Dangereuses, Duet Emmo, Robert Görl, The Assembly, The Birthday Party, Einstürzende Neubauten, Nick Cave & The Bad Seeds, I Start Counting, Bruce Gilbert, Boyd Rice / Frank Tovey.

1978年にロンドン (London, UK) で活動を始めた post-punk の独立系レーベル Mute の 1984年までの全シングル音源 (だたし 12″ mix 等は除く) を収録した 2枚組5タイトルを併せたCD10枚組 box set が限定でリリースされている。 2枚組4タイトル (1〜4) には、それぞれ、1978年から1981年、1982年、1983年、1984年にリリースされた シングル音源 (一部アルバム音源を含む) をリリース順に収録されている。 これら2枚組4タイトルは通常盤としてもリリースされている。 最後の2枚組 (5) は、1984年までのレア音源 (未発表であったり限定盤に収録されたライブ音源や BBC session) を集めたもので、 この box set のみの限定盤だ。 さらに、box set 収録曲に関するクレジットやシングルのオリジナルジャケットだけでなく、 Adrian Shaughnessy (関連レビュー 1, 2) による Daniel Miller インタビューを収録した76ページのブックレットが、 box set には付いている。 Mute 第一弾シングル The Normal, T.V.O.D. のポスター縮刷も付いている。

同時期に post-punk 文脈で登場した Rough Trade や Cherry Red に比べ、 レーベルの音楽性にブレが少いと、通して聴いていて感心する。 また、シングル音源を全て収録すればあってもおかしくないと思うのだが、 ハズレと感じる曲も無かった。 それは、音楽性にぶれが無く、D.I.Y. 的な synth music から 洗練された synth pop や electronic な beat music への展開していく中での 必然が感じられるからかもしれない。

確かに The Birthday Party 〜 Nick Cave & The Bad Seeds のような punk/rock 的な音も含まれてはいるが、 Depeche Mode や Yazoo で知られるように synth pop 色濃い音が中心だ。 The Normal の最初期の D.I.Y. 色濃い synth music から、 Depeche Mode や Yazoo を通して洗練された synth pop へ、 その一方で Einstürzende Neubauten や D.A.F. などの industrial 寄りの beat music 的な音があり、 その中間に Frank Tovey / Fad Gadget がいるという感じだ。 このアンソロジーで知った中でも最も意外だったのは、 LAFMS (Los Angeles Free Music Society) 人脈のグループ Smegma が、 1980年に Non (Boyd Rice) とのスプリットシングルをリリースしていたということだ。

box set 限定のCD 2枚組は、特に、2枚目の Depeche Mode のシングル限定盤に収録されていたライブ音源や Yazoo の BBC Session やライブ音源が嬉しかった。 しかし、例えば、Depeche Mode の一連のシングル限定盤に収録されていたライブ音源にしても、 全て収録されているわけではない。 限定盤の中で切り売りするのではなく、ちゃんとまとめた形でCD化して欲しい。

このアンソロジー box set についてもっとも感心した点は、 シングル全音源収録できる程、権利の管理がしっかりしているということだ。 同世代の Rough Trade や Cherry Red、Factory 等の独立系レーベルについて 初期のシングルのアンソロジーを編纂しようとしても、 権利が散逸して実現困難だろう。 1990年代に直接オーダーするようになったとき、 最初期のシングルをほとんど廃盤にせずにカタログに載せ続けていたのに驚いたものだが、 そのような丁寧なやりかたが、このアンソロジーの実現の基礎になっているのだろう。 Rough Trade が The Smiths を抱えた際に生じた問題 (談話室関連発言) と同様なことが、 Mute が Depeche Mode / Yazoo や The Birthday Party / Nick Cave & The Bad Seeds を抱えた際にも起きていたのではないかと思う。 経営的にどう解決したのか、少々気になった。 ブックレットに掲載されたインタビューでも、 「pop と avant-garde は互いに養い合う関係だったと思う」という程度のことしか言っておらず、 もう一歩突っ込んで欲しかったようにも思った。 (Rob Young の本 Labels Unlimited シリーズで Mute も取り上げてくれないだろうか。)