スイス・チューリヒ (Zürich, CH) を拠点に活動する jazz/improv の打楽器奏者 Lucas Niggli の bass-less trio Zoom の新作は、 現代音楽や jazz/improv の文脈で活動するスイス・バーゼル (Basel, CH) の saxophone 4tet Arte Quartett との共演だ。 この手の共演は、Ensemble Für Neue Musik Zürich と共演した Lucas Niggli Zoom Ensemble, Sweat (Intakt, CD093, 2004, CD) (レビュー) に続くものだ。
ただし、共演が saxophone 4tet ということもあって、 Sweat ではほとんど無かった 音を重ねてテクスチャを作るような展開も楽しめる。 saxophone は柔らい音色が多用され、それらが織り成すテクスチャの中を Wogram の trombone や saxophone のソロがアクロバティックな フレーズを展開していくような所が、とても気に入っている。 また、saxophone のテクスチャで展開をまったりさせることなく、 Niggli の drums はキレの良さを作り出している。 特にその良さが出ているのは、オープニングの11分余の曲 "Saft" だろう。
他のミュージシャン/グループをネタにした曲もあって、 少々 free jazz 色濃い "Shibusa's" は 渋さ知らズ (Shibusa Shirazu) を意識したものだろうし、 "One For Evan" は Evan Parker の multiphonic 技法を saxophone 4tet で模したようだ。 "Collision Coalition" から "Fart Ins Blaue" は組曲のようになっているのだが、 そこで聞かれる Nils Wogram の voice は Sweat での Phil Minton を連想させられる所もある。
そんなわけで、演奏技法や展開に斬新さがあるわけではないが、 bass less trio と saxophone 4tet を併せての 構成の妙が楽しめるような作品だろう。
ちなみに、このCDのライナーノーツは、 ブルックリン (Brooklyn, NY) を拠点に活動する saxophone 奏者 Tim Berne が書いている。Berne も Arte Quartett による演奏を含む The Sevens (New World, 80586, 200, CD) という作品をリリースしている。 この作品で Berne は saxophone 奏者というより作曲家という立場で、 自身は1曲しか吹いていない。 また drums 無しということもあり、少々緩くて、聴いていて物足りなく感じていた。 この Crash Cruise を聴いていて、 Berne の bess-less trio である Big Satan と Arte Quartett の共演も聴いてみたい、と思った。