Lucas Niggli は1980年代末からスイス・チューリヒ (Zürich, CH) を拠点に jazz/improv/new music の文脈で活動する打楽器奏者だ。Zoom は Niggli が、 Room 70 での活動も 注目の ケルン (Köln, NW, DE) 拠点の trombone 奏者 Nils Wogram、 ゲッチンゲン (Göttingen, NI, DE) 出身の Philipp Schaufelberger と 1999年に結成した bass-less trio だ。 Zoom は3人を核とする拡大編成での活動も行っているが、Big Zoom はその一つ、 スイス出身の clarinet 奏者 Claudio Puntin と、 オーストリー (Austria) 出身の bass 奏者 Peter Herbert を加えての2管5tetだ。 ちなみに、Big Zoom としてのリリースはライヴ録音の Big Ball (Intakt, CD083, 2003, CD) 以来2作目、今回はスタジオ録音だ。 この新作は録音が良くなって、この 5tet の魅力が良く出ている。 さまざま Zoom のプロジェクトの録音としては5作目だが、その中でも最も楽しめた。
この 5tet の魅力の一つは Wogram & Puntin の2管だろう。 Wogram の Root 70 での Hayden Chisholm との組み合わせを思わせる所もあるが、 Puntin のフレーズはもっと技巧的で、 時折、現代音楽 (contemporary classical / new music) 的にすら感じる。 そのアクロバティックな2管の絡みも楽しい。 drums 主導という点でも、Michael Moore & Walter Wierbos の2管の Gerry Hemingway 5tet なども連想させられるが、 そこまでアクロバティックではなく、もっと室内楽的な柔らかい音の落ち着きも楽しめる。 Schaufelberger の guitar も trio の Zoom のときは大人しすぎると感じていたが (Lucas Niggli Zoom, Spawn Of Speed (Intakt, CD067, 2001, CD) のレビュー)、 Schaufelberger の細かいフレーズは bass もいる5tetの方が据わりが良いように思う。
最も気に入っているのは、"Grosse Sprünge"。 細かいフレーズや飛躍の多いフレーズを多用した所など、 このグループのアクロバッティックな面白さが良く出ているだろう。 Zoom Ensemble でも演っていた "Dance for Hermeto" は Hermeto Pascoal に捧げられた曲ではないかと思うのだが、 アップテンポの中で緩い展開になったとき、 guitar と clarinet の掛け合いがふっと choro 〜 Brazilian jazz っぽく感じられたり (この曲以外でもそう感じるときもあるのだが)と、メリハリが感じられて気に入っている。
2年余り前に Zoom の拡大アンサブルの録音がリリースされている。 Zoom の3人と Big Zoom の Puntin に加え、 イギリス (UK) の jazz/improv の voice パフォーマー Phil Minton に Hat Hut の hat[now]ART シリーズからも リリースのある現代音楽のアンサンブル Ensemble Für Neue Musik Zürich を加えた編成だ。 現代音楽のアンサンブルの参加とはいえ、さほどそれっぽい展開は無く、 むしろギクシャク気味のリズムのキレの良さも contemporary な jazz big band に近いものを楽しめる作品だ。
特に気にいっているのは、double bass を抜いて、tuba の取るベースラインだ。 ギクシャクめのリズムに tuba の響きがとてもユーモラスに感じられる。 それに、ときおりドシャメシャに弾くパーカッシヴな piano や、 クールな vibraphone の響きも、音色や展開に幅を与えている。 様々な音を加えながら、音の重ね方が巧く、すっきり小回り良さそうな音に聴こえるのだ。 そこが気に入っている。
20分弱と一番長い曲 "No Nation" の後半 (13分頃以降) など、 淡々としたビート感を保ちつつ、tuba や trombone の抑えつつ引っ張る低音に対し clarinet が高く舞い上がるようなソロを聴かせる展開で、 ぐんぐんと盛り上げていく所がかっこいい。 "Dance For Hermeto" もアップテンポでかっこよいが、 Celebrate Diversity のヴァージョンの方が 好みだろうか。
Phil Minton をフィチャーしていることもあり、 voice をフィーチャーした big band 物である Theo Bleckmann をフィーチャーした John Hollenbeck & Jazz Bigband Graz featuring Theo Bleckmann, Joys & Desire (Intuition, INT3386-2, 2005, CD) (レビュー) と 比較したくなる所もある。Sweat は 管を重ねてテクスチャを作るような所は無いが、 ギクシャクめのリズム感など共通点も感じるのは、 Hollenbeck も Niggli も打楽器奏者だからかもしれない。
ところで、Celebrate Diversity や Sweat を聴いていて、 clarinet 奏者 Claudio Puntin の良さに気付かされた。 Claudio Puntin / Gerður Gunnarsdóttir, Ýlir (ECM, ECM1749, 2001, CD) というリリースもあるが、2003-2004年頃にやっていた World Clarinet Quartett というのが気になる。 Puntin の他の面子も、 イタリア (Italy) の Gabriele Mirabassi (レビュー) に、 ブラジル (Brazil) の Nouvelle (Cuisine) かつ Sujeito A Guincho の Luca Raele (レビュー)、 同じくブラジルの Paulo Sergio Santos と、かなり興味を惹かれるものだ。 もし録音が残っているのであれば、リリースして欲しいものだ。