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Review: Harry Tavitian & Mihai Iordache, Balcaz; Iordache, Dissipatin'; Iordache, Hesitations
2007/11/18
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
(Pirate, 004, 2006, CD)
1)Cicerone: Dele Yaman (Armenian trad.) / Descent On Ararat 2)Cicerone (Balkan trad) 3)Cicerone / Searching In The Darkness 4)(Balkan trad.) 5)Cicerone / Bruce Jump 6)(Balkan trad.) 7)Cicerone / Friday 8)Cicerone (Caucasian trad.) 9)Cicerone / Nov '82 10)Oriental Dance 11)Cicerone / Lord Have Mercy
Recorded: 2004/09/23.
Harry Tavitian (piano, wooden flutes, vocal, organ, bell, cow-bell), Mihai Iordache (alto sax, baritone sax, flute, wooden flute, didgeridoo).

1980年代の Ceauşescu 独裁政権時代からルーマニア (Romania) で活動する アルメニア系 (Armenian) の free jazz/improv の piano 奏者 Harry Tavitian が、久々にCDをリリースした (1980年代の録音は東欧の free jazz/improv を得意とした Leo からリリースされていた)。 自身のグループ Orient Express のメンバーでもある saxophone 奏者 Mihai Iordache との duo だ。

タイトルの Balcaz は、Tavitian のルーツとも言える バルカン (Balkan) とコーカサス (Caucasus) を合成したもので、 この2地域の伝承的な旋律やリズムを利用した free jazz 的な約1時間の組曲が収録されている。 double reed と思われる甲高い音色の楽器や鈍い音色の笛、didgeridoo の短い演奏が、 インターリュード的に挿入されるが、 それが piano や saxophone の演奏と絡むことはあまりなく、 基本は alto saxophone (時折 baritone) と piano の duo だ。

Tavitian の piano は強い音でリズミカルに時折ドシャメシャに演奏するが、 あまり抽象度は高くなく jazz のイデオムも強い。その強い音色も気持ち良い。 Iordache の saxophone がバルカンやコーカサスの旋法から入って ブリブリと free 気味に吹くのだが、 Ornette Coleman ぽくなったり John Coltrane ぽくなるのも愛嬌か。 斬新な組合せ・展開が聴かれるわけではないが、 バルカンやコーカサスの節回しや変拍子からドシャメシャな展開に雪崩込む、 そんな演奏が楽しめる作品だ。

Tavitian の録音を聴くのは汎黒海の folk/roots 指向の free jazz big band の The Black Sea Orchestra, The Black Sea Project (Lyra, ML0660, 1998, CD) (レビュー) 以来だ。 その後、自身グループ Orient Express で1枚CDをリリースしているようだが、未入手。 この Balcaz も Pirate というレーベルからのリリースとなっているが、 レーベルの名前からしてオフィシャルブートレグかもしれない。 ジャケットも厚紙にCD留を付けただけのもので自主製作色濃い。 東欧革命後も活動を続けているが、CDリリースの面で決して恵まれた状況ではなさそうだ。

Tavitian と duo を組んでいた Iordache がどういうミュージシャンか気になったので、 リーダー作を聴いてみた。簡単に内容を紹介。

Dissipatin'
(A&A, 160606, 2005, CD)
1)Dissipatin' 2)Tu N'As Rien Vu À Schaerbeck 3)Fig Tree 4)Recycle 5)Time Of Our Lives 6)Gloomy Sunday 7)Up 8)You Know It's True
Recorded: 2004/09/16.
Iordache (tenor saxophone), Cristian Soleanu (tenor saxophone), Raul Kusak (Hammond, moog), Eugen Nutescu (guitar), Vlaicu Golcea (bass, programming, keyboards), Vadim Tichisan (drums), Marta Hristea (voice), Sorin Romanescu (guitar).

ルーマニアの大手レーベル A&A (Warner Music 系) からリリースされた この作品は、Hammond を使ったりリズムに打ち込みを使ったりと、 いわゆる nu jazz 〜 club jazz 路線だ。 しかし、音作りも半端に古く録音もいまいちで、プロダクションの詰めが甘い。 programming のリズムにフリーキーな演奏が乗る "Tu N'As Rien Vu À Schaerbeck" のような良くなりそうな曲もあるので、 ドイツあたりで制作すれば違ったのかもしれない。

ちなみに、クレジットの thanks の所に、everybody at Green House Jazz Café とある。 Green House はブカレスト (Bucarest, RO) にあるクラブで、以前にもここがリリースしたCDを入手したことがある (関連発言)。 この手の音楽のブカレストでの拠点の一つとして要注意だ。

Hesitations
(self published, 2006, 2CD)
CD1: 1)One Life Left 2)Late For Coffee 3)A Little Rain 4)The Lick 5)Get It 6)I Love You 7)Fiare Vechi Luam 8)As If I Cared CD2: 1)Real Fake Nails 2)Hesitations - Part 1 3)El Mundo, Amigo (for T. C.) 4)Dissipatin' 5)Jan's Idea
Iordache (tenor and baritone saxophone), Sorin Romanescu (guitar), Jan Roder (bass). Tavi Scurtu (drums).

guitar 入り 4tet のライブを収録した CD-R 2枚組は、 即興といっても jazz のイデオムが強く、時折 free jazz 的になる。 収録されている音楽の内容よりも、 段ボールを折り曲げて彩色してステンシルでタイトル曲名を書き込んだジャケットに 手焼のCD-Rを詰めた、 いかにも D.I.Y. な作りの方にインパクトを受けた。収納に困るが。