1980年代初頭のイギリス (UK) は、 punk 直後の先鋭的で少々実験的な post-punk の中から、よりポップな音楽が出てきた頃。 音楽評論家 Simon Reynolds は 著書 Rip It Up And Start Again: Postpunk 1978-1984 (2005) [関連発言] の中で、このような post-punk の中から出てきたポップな音楽を “New Pop” と呼んでいる。 (“New Wave” は、post-punk、“New Pop” や ある種のメインストリームのポップまで含む広い概念と言っていいだろう。) この Methods Of Dance は、 当時 Virgin レーベルがリリースしていた “New Pop” の中でも ダンスフロア指向の強い synth pop 的な曲を集めたコンピレーション・アルバムだ。 初CD化のダンスフロア向けリミックス曲も収録されているというだけでなく、 post-punk 後、ZTT前夜に funk、hip hop や disco のビートに取り組んだ メインストリーム寄りの synth pop / New Pop の良いコンピレーションになっている。
このアンソロジーは、1981年に Virgin がリリースしたサンプラー盤的な廉価コンピレーション Methods Of Dance と、 翌1982年にリリースされたその Volume 2 に基づくものだ。 ただし、完全な2in1ではなく、4曲が削除され、 代わりに当時の Virgin レーベルの音源から3曲が追加されている。 また、リーフレットにはクレジットが書かれているだけで、 当時の時代背景や収録ミュージシャンや曲に関する解説は全くない。 オリジナルの Methods Of Dance では、 1983年に ZTT レーベル設立に関わることとなる音楽ジャーナリスト Paul Morley が ライナーノーツを書いていた。 追加の曲を収録するとしても、 オリジナルの2枚を完全収録した上で、Paul Morley のライナーノーツも再収録した 解説付きブックレットを付ければ、 時代の記録という意味でも資料価値の高いアンソロジーになったと思うだけに、残念だ。
コンピレーションの核になっているのは、シェフィールド (Sheffield, England) の グループ The Human League と、そこから分離したグループ Heaven 17 だろう。 (むしろ、Heaven 17 の方が本流とも言える。) B.E.F.は Heaven 17 の別名義プロジェクトで、 The Men の実体は分裂前の The Human League だ。 彼らの音は synthesizer の音色や disco 的なリズムに時代を感じるけれども、 十分に楽しめるものだ。
Simple Minds や Japan、Culture Club なども収録されており、 Mute や Factory のような同時代のインディーに比べると Virgin はかなりメインストーリム寄りだと改めて実感する。 音楽的には synth pop で大きな違和は感じないが、収録された中で少々異色なのは、 唯一のアメリカのグループ、オハイオ州アクロン (Akron, OH, USA) の Devo。 彼らはアメリカにおけるカウンターパートとして収録されたのだろう。 ちなみに、このCD化の際に削除されたグループ中で最も重要なのは、 D.A.F. (Deutsch Amerikanische Freundschaft) だろう。 オリジナルの中では、ドイツ (Germany) のカウンターパートという位置付けだったと思うだけに、 CDで収録されなかったのは残念だ。 その代わりというわけでもないだろうが、ベルギー (Belgium) のグループ Allez Allez が CDで新たに収録されている。
参考までに、オリジナルのコンピレーションLP 2タイトルの収録曲等を、 以下に載せておく。
メインストリーム寄りの視点から Methods Of Dance の “New Pop” から post-punk、punk へと遡るような 廉価コンピレーション2タイトルが2年程前にリリースされているので、併せて簡単に紹介。
現在 EMI 傘下となっているレーベルの punk、post-punk 関連の音源から選曲された 廉価コンピレーションだ。post-punk の方にアルバムからの曲が5曲含まれるが、 基本的にシングル音源のコンピレーションだ。 punk のコンピレーション収録曲のリリース年は1976-79年、 post-punk の方は1978-1981年となっている。 ライナーノーツを書いているのは音楽ライターの Kieron Tyler で、おそらく彼の選曲だ。 主なレーベルとしては、EMI 本体はもちろん、 Virgin、DinDisc (Virgin のサブレーベル)、United Artists、Harvest、Chrysalis、Pre (Charisma のサブレーベル) が含まれている。
選曲には少々不満を感じる。 punk のコンピレーションで最も残念なのは、The Sex Pistols が含まれていないことだろう。 また、1976-77年だけでなく、1978-79年の曲も1曲ずつ収録しており、 オリジナルの punk に焦点を当てるというには軸がブレている。 post-punk についても、当時の Virgin レーベルには収録されても良いような 重要なグループが多く在籍していた。 The Flying Lizards、分裂前の The Human League、1stアルバムの頃の Mekons など。 Virgin 以外でも、DinDisc の Orchestral Manœuvres In The Dark、Pre の Delta 5 などがいた。 シングル音源中心の選曲で初CD化されたグループの曲も収録されているが、 決定版的なアンソロジーとは言い難い。 punk 以降の動きに対するレーベルによる対応の違いを明らかにするという意味でも、 punk / post-punk で切らずに、 レーベル別にアンソロジーを組んだ方が興味深くなったのではないだろうか。
そんな選曲の問題点は入手前から気付いていたが、入手してみた一番の理由は、 post-punk のコンピレーション Nervous Tension の ライナーノーツへ、 XTC の Andy Partridge が寄稿していたから。 実際、同時代の post-punk グループをどう見ていたか判る、興味深い内容だった。 例えば、Gang Of Four と Wire について、こう書いている (引用者訳)。
怠惰なジャーナリストにいつも我々 [XTC] と一緒くたに扱われてた2つのグループ、 Gang Of Four と Wire が、ここに収録されている。 もちろん、我々は彼らと似ているように聞こえるところは無いし、彼らにしてもそうだ。 しかし、NME をぱたつかせて必死にこの新しい音楽の意味を理解しようとしてるような だらしなく無教養なやつなら、 非常に僅かな類似点がそれを把握する大きな手がかりになったのだろう。 Gang Of Four は、パニック状態のファンクから生えてくる金属質の下草のように、 ギター音を敷き詰めている。 一方、Wire は、 美術学生による音の詰め物のように本質的なものだけに切り詰められた、 疎で張り詰めた感じだ。 空虚だが、それも一つの選択だろう。
こんな感じでかなり皮肉っぽい口調も Partridge らしい。 それに、それぞれのグループが演奏している音楽へのコメントも的を射ている。 これを読むことができたことが、一番の収穫だった。 XTC の post-punk マニフェストとも言える曲 “This Is Pop?” をオープニングに置き、 Andy Partridge のライナーノーツを付けているあたり、 このコンピレーションで post-punk の基準として意識されているのは XTC なのかもしれない。