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Review: Lali Puna: Our Inventions
2010/07/26
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
(Morr Music, morr 098, 2010, CD)
1)Rest Your Head 2)Remember 3)Everything Is Always 4)Our Inventions 5)Move On 6)Safe Tomorrow 7)Future Tense 8)Hostile To Me 9)That Day 10)Out There (feat. Yukihiro Takahashi)
Recorded: 2009/3-10. 10) Additional production by Yukihiro Yakahashi and Tomohiko Gonda, 2008/12.
Valerie Trebeljahr (vocals,keyboards), Markus Acher (bass,keyboards), Christoph Brandner (drums), Christian Heiß (keyboards); guest: Karl Ivar Refseth (vibraphone,percussion).

Lali Puna は1998年にドイツ・バイエルン州ミュンヘン (München, BY, DE) 近郊の街 Weilheim で活動を始めた4人組。 女性歌手 Valerie Trebeljahr をフィーチャーし、indie-pop と electronica の中間を行くような音楽を演奏するグループだ。 リミックスやレア音源を集めたコンピレーションを除くと6年ぶりとなる4作目は、 前作 Faking The Books (Morr Music, 2004) で強めた indie-rock 的なイデオムが後退し、 初期の雰囲気を取り戻しつつ洗練させたよう。 pop ながらテクスチャを生かした electronica な伴奏に淡々とした歌が楽しめた。

といっても、聴き比べると、10年前の Trebeljahr のささやくような歌声は拙く引っかかるようで、 抑揚少なめに歌うというだけでなく、平坦に語るような呟きも用いていた。 Tridecoder (1999) のオープニング “6-0-3” や “Rapariga Da Banheira”、 Scary World Theory (2001) の “Middle Curse” や “Scary World Theory” で聴かれるような。 そんなこともあって、Our Inventions に先行して シングルカットされ SoundCloud で無料配布された “Remember” を聴いたとき、 ぐっと女性的な歌声になったように感じられた。 この歌で繰り返される “You're going on ...” という歌詞の抑揚など、 今までの Lali Puna にはあまり無かったものだ。 その一方で、初期に多用していた、平坦な呟きは全く影を潜めている。 バックの音も、ピコピコポコポコいうような薄っぺらいシンセサイザーの音は無くなり、 テクスチャにも深みが出ている。 このような歌い方の背景の音の変化に、彼らなりの洗練を感じた。

“Remember” の Tutu Helvetica に近い pop な仕上がりも悪くないが、 hip hop 的なトラックに rap のようなリズミカルな呟きを乗せて始まり ここから伸びのある展開となる “Move On” が、 その取り合わせもアルバム中で最も印象に残るトラックだ。 最後の曲 “Out There” は 高橋 幸宏 (ex-Yellow Magic Orchestra) の『Page By Page』 (EMI, 2009) で Trabeljahr をフィーチャーしていた曲。 こちらでは、Lali Puna に高橋をフィーチャーした形で収録しているが、 クレジットが無ければそうと気付かないくらいさりげないものとなっている。

ちなみに、このアルバムの曲から、シングルカットされた “Remember” ではなく、 “That Day” のヴィデオクリップが制作されている [YouTube]。 それまでの低予算DIY的な実写のヴィデオ (“Middle Curse&rdquo [YouTube] や “Micronomic” [YouTube]) と違い、 アニメーションを使ったものになっている。 “That day I lost my head...” と始る「私が頭を無くしたその日」についての 可愛いさの中に不条理を込めたような世界を、 そのままキャラクタを使ったアニメーションにしている。 NHK教育 『みんなのうた』 に近いセンスを感じないではないが、 それも含めてとても気に入っている。 このヴィデオを観る前は、“Everything Is Always” や “Safe Tomorrow” と同様に、 さらっとし過ぎて捕らえ所のないような印象を “That Day” から受けていたのだが、 観た後は、むしろシングルカットされた “Remember” よりも気に入った曲になってしまった程だ。

ところで、Lali Puna と Weilheim で同郷のミュージシャンに、主に jazz/improv の文脈で活動する Johannes Enders がいる。 ENJA や Intuition からリリースのある Enders の nu jazz のグループ Enders Room には、 Lali Puna の Markus Acher が参加している (Enders Room のもう一人の drums 奏者は John Hollenbeck だ)。 また、Lali Puna の Markus Acher と Christoph Brandner がやっているもう一つのグループ Tied & Tickled Trio へ Johannes Enders も参加している。 そういう繋がりがあるだけに、Enders のようなミュージシャンをゲストに迎えて jazz 的なイデオムに取り組んだ Lali Puna や、 nu jazz 的な演奏を背景に Trebeljahr が歌うようなプロジェクトのようなものも聴いてみたいと思う。