Four Tet (aka Kieran Hebden) は1990年代末から ロンドン (London, England, UK) を拠点に活動する electronica のミュージシャンだ。 その jazz や folk を思わせるアコースティックな楽器やアナログ・シンセなどの ソフトな音色使いは "folktronica" とも呼ばれる。 このシングルは、今年の頭にリリースされた アルバム There Is Love In You からの3曲目のリミックスだ。 “Angel Echoes” はアルバム全体のイントロにもなる淡々とした曲だが、 Jon Hopkins のリミックスはこれを piano のフレーズも緩めの8分の6拍子のリズムに置き換えている。 エコーも深めになり、ループに使われていた女性の歌声も漂うよう。 その穏やかに舞いながら回転するようなノリが気持ちよいリミックスだ。 一方の Caribou (aka Manitoba, Daniel Victor Snaith) のリミックスは、 ギクシャクながらダンス向けにリズムを強化したかのような electronica だ。
お返しということだろうか、 “Angel Echoes” のリミックスを手かげていたロンドンのミュージシャン Jon Hopkins の Insides (Double Six, DS015, 2009) からのシングルで、 Four Tet がリミックスを手掛けている。 リリースしている Double Six は Domino のサブレーベルだ。 “Vessel” のオリジナルにあった叙情的な piano のフレーズを取り去り dubstep のようなビートを浮かび上がらせている。 ソフトでカラフルな音作りをする Four Tet からすると意外なリミックスだ。 もう一方の Nathan Fake によるリミックスは electronica 的な音使いながらアップテンポで派手めビートによるダンスフロア向けだ。
Four Tet は “Angel Echo” の前に There Is Love In You から 2曲をリミックス・シングルとしている。 それも、有名な所にリミックスを頼むのではなく、 UK funky (UK garage/house や 2 step、dubstep 等と隣接する club music のジャンル) やそれに近い文脈で活動する ロンドンの DJ/プロデューサ をリミックスに起用している所も興味深い。 合わせて簡単に紹介。
最初にシングル・カットされたのは “Love Cry”。 Hotflush や Aus Music からリリースのある Joy Orbison のリミックスは アクセントこそ dubstep 的なものを感じるが house 的な軽快さもある仕上がり。 一方、Roska のリミックスはつっかかるようなリズムにズブズブの低音は UK funky というより dubstep 風に感じられた。 ちなみに、DLでは1つにまとめられているが、 アナログ12&Prime では1, 2曲目と3, 4曲目がぞれぞれ別に2枚リリースされている。
続いてシングル・カットされたのは “Sing”。 Elgo だけでなく Planet Mu からも12″をリリースしている Floating Points (aka Sam Shepherd) によるリミックスは14分の長尺で、 静 (ambient) と動 (brokenbeats 的な house) の間を大きく振れる劇的な展開を聴かせる。 一方、Mosca と Hardhouse Banton のリミックスは、 アップテンポな展開もダンスフロア向けなもの。 声のサンプリングや Laten/Brazilian 風の打楽器類の音を増量した funky な Mosca のリミックスと比較すすると、 Banton のリミックスは淡々として minimal に感じられる程。 そして、そんな Banton のリミックスも気に入っている。
一連のシングルがカットされた元はこのアルバムだ。 ソフトな音色を多用した electronica だが、 そこから minimal に脈動するようなビートを作り出すのではなく、 むしろ、軽く明るめの音を散りばめてカラフルなサウンドを作りだしていく。 そんな音作りは2000年前後以来相変わらずだが、 この作品では歌声のサンプリングが耳を捉える。 シングルカットされた “Love Cry” のひたすらループされる “love cry” という歌声、 “Sing” での漂うようなコーラス、 “Angle Echo” で散りばめられられる男女の歌声の断片、など。 これらが、今までのアルバムには無かったキャッチの強さを作り出しているのかもしれない。
今までそれなりにフォローしてきたけれども、何か掴みに欠けるように感じていた。 しかし、この There Is Love In You は、 今年前半の自分のヘビーローテーションの一枚となった。 もちろん、この今年頭の BBC Radio 1's Essential Mix [レビュー] が無かったら、 今年に入ってこれだけ Four Tet にハマってはいかなったとは思うけれども。
FACT magazine の DJ mix に Four Tet が登場している。 9月6日から3週間、FACT magazine 無料ダウンロード可能だ。 9月末にリリース予定の post-dubstep の編集盤 Future Bass (Soul Jazz, 2010) に収録予定の新曲 “Nothing To See” もプレイしている。 軽やかでカラフルな There Is Love In You とは異なり、 dubstep や UK funky に接近したよう。 “Love Cry” や “Sing” のリミックスのDJ/プロデューサーの選択といい、 作風の移行期なのだろうか。 ちなみに、Return To Plastic People というタイトルは、 Much Love To The Plastic People (SouldCloud / Four Tet, no cat.no., 2009-12, DL) を承けたものだろう。