1976年に結成されたロンドンの4人組 Rock グループ Wire の 最新アルバム Red Barked Tree と シングル Strays がリリースされた。 punk シーンからアーティな post-punk に歩みを進め、 以来、実験的な alt-rock の作風で活動を続けている。 Bruce Gilbert が名誉職 (emeritus) と引退し、 前作 Object 47 (Pinkflag, 2008) から残る3人で活動している。 まるで punk の頃のようだった Send (Pinkflag, 2003) と異なり、 その音楽はむしろ1980年代半ばに近い。 2000年代に活動再開してからの Wire の歩みは、 まるで1970年代末から1980年代の歩みを辿り直しているよう。 そんな印象を受けたアルバムだった。
オープニングの “Please Take” は ゆったりしたビートにソフトな guitar な音と歌声もドリーミーな Bell Is a Cup Until It Is Struck (Mute, 1988) の曲のよう。この曲と、エンディングの “Red Barked Tree” が そのアルバムを色を決定付けている。 前作は移行期的な半端を感じたものだが、 この新作はシュールな歌詞と屈折したポップ感が楽しめた。 ダウンテンポの曲でも “Adapt” や ”Clay” のような曲は、 Chairs Missing (Harvest, 1978) や 154 (Harvest, 1979) の頃のだが。 確かに、“Two Minutes” は punk 流儀だが、 公式サイトに載った曲毎のコメントによると、 これはこのアルバムの中で唯一の2010年以前の2001年の曲という。
このアルバムに合わせてリリースされたシングル Strays (公式サイト・メールオーダーの Red Barked Tree に付録する2000枚限定非売品) は、彼らがライブでよく演奏するレパートリーの再演スタジオ録音が収録されている。 “Boiling Boy”、“German Shepherds” は Bell Is a Cup Until It Is Struck (1988) の頃の曲、 “He Knows” は2000年来のライブ・レパートリー、 “Underwater Experiences” は Document And Eyewitness (Rough Trade, 1981) にライブ録音が収録されている。 これらの録音、特に、“Boiling Boy” や “German Shepherds” は、 新作の種明かしでもあるように感じられた。
新作はけっして斬新な音楽が収録されているわけではない。 むしろ、過去の作品を連想させられるような所も多かった。 しかし、Send が rock の美学を techno の技法で構築するというコンセプトだった [関連レビュー] ことを考えると、 この新作は1980年代の Wire 的な post-punk の現代流再構築だったのではないか。 ファンの贔屓目かもしれないが、そんなことを考えさせ程度に興味深い作品だった。