TFJ's Sidewalk Cafe > Cahiers des Disuqes >
Review: Wire: Red Barked Tree; Wire: Strays
2011/03/21
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
Wire
Red Barked Tree
(Pinkflag, PF18, 2011, CD)
1)Please Take 2)Now Was 3)Adapt 4)Two Minutes 5)Clay 6)Bad Worn Thing 7)Moreover 8)A Flat Tent 9)Smash 10)Down To This 11)Red Barked Trees
All songs written & performed by Wire.
Colin Newman (vocals, guitar, various), Graham Lewis (bass, vocals, various), Robert Grey (drums).
Wire
Strays
(Pinkflag, PF18S, 2011, CD)
1)Boiling Boy 2)German Shepherds 3)He Knows 4)Underwater Experiences
Performed by Wire.
Colin Newman (vocals, guitar, various), Graham Lewis (bass, vocals, various), Robert Grey (drums); Augmented by: Matt Simms (guitar), Margaret Fiedler McGinnis (guitar, voice).

1976年に結成されたロンドンの4人組 Rock グループ Wire の 最新アルバム Red Barked Tree と シングル Strays がリリースされた。 punk シーンからアーティな post-punk に歩みを進め、 以来、実験的な alt-rock の作風で活動を続けている。 Bruce Gilbert が名誉職 (emeritus) と引退し、 前作 Object 47 (Pinkflag, 2008) から残る3人で活動している。 まるで punk の頃のようだった Send (Pinkflag, 2003) と異なり、 その音楽はむしろ1980年代半ばに近い。 2000年代に活動再開してからの Wire の歩みは、 まるで1970年代末から1980年代の歩みを辿り直しているよう。 そんな印象を受けたアルバムだった。

オープニングの “Please Take” は ゆったりしたビートにソフトな guitar な音と歌声もドリーミーな Bell Is a Cup Until It Is Struck (Mute, 1988) の曲のよう。この曲と、エンディングの “Red Barked Tree” が そのアルバムを色を決定付けている。 前作は移行期的な半端を感じたものだが、 この新作はシュールな歌詞と屈折したポップ感が楽しめた。 ダウンテンポの曲でも “Adapt” や ”Clay” のような曲は、 Chairs Missing (Harvest, 1978) や 154 (Harvest, 1979) の頃のだが。 確かに、“Two Minutes” は punk 流儀だが、 公式サイトに載った曲毎のコメントによると、 これはこのアルバムの中で唯一の2010年以前の2001年の曲という。

このアルバムに合わせてリリースされたシングル Strays (公式サイト・メールオーダーの Red Barked Tree に付録する2000枚限定非売品) は、彼らがライブでよく演奏するレパートリーの再演スタジオ録音が収録されている。 “Boiling Boy”、“German Shepherds” は Bell Is a Cup Until It Is Struck (1988) の頃の曲、 “He Knows” は2000年来のライブ・レパートリー、 “Underwater Experiences” は Document And Eyewitness (Rough Trade, 1981) にライブ録音が収録されている。 これらの録音、特に、“Boiling Boy” や “German Shepherds” は、 新作の種明かしでもあるように感じられた。

新作はけっして斬新な音楽が収録されているわけではない。 むしろ、過去の作品を連想させられるような所も多かった。 しかし、Send が rock の美学を techno の技法で構築するというコンセプトだった [関連レビュー] ことを考えると、 この新作は1980年代の Wire 的な post-punk の現代流再構築だったのではないか。 ファンの贔屓目かもしれないが、そんなことを考えさせ程度に興味深い作品だった。

sources:
関連レビュー: