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Review: Wols: Unframe; Wols: Pingipung Podcast 06: Into The Everyellow Bouncing Datacloud; Wols: Bushmans Oversized Vibe
2011/06/05
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
Wols
Unframe
(Pingipung, 21, 2011, CD)
1)Unframe 2)Aaramu's Army Vs. Our Sneakers 3)Geek Rudohop 4)Justma 5)Liquid Meets Discrete 6)Bathyscape Finds A Music Box 7)Fractals, Chaos, Power Laws 8)Hereinafter 9)Damage (Rework) 10)Half Ain't Enough 11)Taluppa Kids 12)Subland Hike 13)International 14)Shiny Headway Endrhyme
All tracks written and produced by Wols, except #9 written by Illuminated Faces, remixed and produced by Wols. Recorded 2009-2010.
Evgeny Shchukin [Евгений Щукин], Alexander Tochilkin [Александр Точилкин].

Modul は北カフカス (Северный Кавказ) のクラスノダール (Краснодар, RU) 出身、 2003年に活動を始めた Evgeny Shchukin [Евгений Щукин] と Alexander Tochilkin [Александр Точилкин] によるユニットだ (オリジナルメンバーの Evgeny Fomin [Евгений Фомин] は脱退)。 Modul は当初の IDM 的な作風からよりダンス志向の tech house に作風を変えてきているが、 そんな2人の別名ユニット wols は、より低音で downtempo を指向した、 dubstep の影響を感じる音作りだ。 ちなみに、Modul にはもう一つ別名義 Feldmaus がある。こちらは ambient 寄りの音作りだ。

やはり耳を捉えるのは dubstep 色が最も濃い “Aaramu's Army Vs. Our Sneakers”。 といっても、アルバム全体としては、期待した程は dubstep 色は濃くはない。 低音の跳ねるようなビート感が面白い “Liquid Meets Discrete”、 アップテンポなビートが並走するような “Fractals, Chaos, Power Laws” なども気に入っている。 abstruct hip hop 〜 downtempo breakbeats を思わせる曲も多いが、 そちらはあまりピンとこなかった。 全曲良かった、という程ではないが、2008年頃の Modul のリリースと比べても、 イギリスやドイツの DJ/producer と比較してもあまり遜色の無い洗練された音作りになってきているように感じる。 今後の活動に期待したい。

ちなみに、このCDをリリースした Pingipung は、 Andreas Otto (aka Springintgut) らによって2001年に設立された ハンブルグ (Hamburg, DE) のレーベル (Kompakt 配給)。 生演奏使いなど Karaoke Kalk レーベルにも似た electronica がそのレーベルカラーだ。

Wols
Pingipung Podcast 06: Into The Everyellow Bouncing Datacloud
(Pingipung, Podcast06, 2011-05-02, DL)

Pingipung レーベルは去年末から DJ mix の podcast を月一程度の頻度で始めている (正確には、RSS配信はしておらず、SoundCloud を使って配信している)。 アルバム Unframe のリリースに若干先行して、 Wols の DJ mix がここからリリースされた。 Unframe のトラックをメインに据えた DJ mix ではないが、 dubwise なオープニングから後半の歌物まで Unframe の背景となるテイストを垣間見るようだ。

Wols
Bushmans Oversized Vibe
(Highway, HWR007, 2010-05-23, DL/12″)
1)Bushmans Oversized Vibe (Greg Parker Remix) 2)Bushmans Oversized Vibe 3)Bushmans Oversized Vibe (Guti Remix)

Wols の名義は去年から少しずつ使い始めていたもので、去年一枚12″をリリースしている。 dubstep を思わせる低音部の上に Sergey Starostin のアルバムで聴かれるようなロシアの folk/roots を思わせる 裏声の歌声が被せられたりする所が、面白いトラックだ。 Greg Parker の remix は普通の tech house だが、 Desolat からもリリースのある Guti の remix は bongo 風 percussion の軽い音が加えられ、 少々ひょうきんで面白い。

このシングルをリリースした Highway Records は、 ロシアのDJ/プロデューサー Mike Spirit によって2008年に設立された モスクワ (Мешков, RU) のレーベルだ。 DLとアナログ12″のみで、CDのリリースは無い。 SCSI-9 や Modul、Bvoice & KHz などリリースしているミュージシャンに Pro-Tez [レビュー] と重なりもあり、リリースする音も似ている。 また、2010年11月以来、毎週月曜のリリースで DJ mix の podcast をしている。 Highway レコードからリリースしているロシアのDJ/プロデューサーや リミックスでの縁のあるロシア外のDJ/プロデューサーも取り上げている。

また、Modul / Wols の Evgeny Shchukin は、主宰の一人として クラスノダールのネットレーベル FUSELab を運営している。 FUSELab は、IDM 色濃いレーベル Fragment と ambient 色濃い Passage という 2つの electronica のレーベルを再編する形で、2010年12月に現在の形になった。 再編に合わせて、 Fragment と Passage に加え、dub/bass 〜 hip hop 寄りの Jumble という3つめのサブレーベルを設立し、 podcast も始めている。 さらに、Beatport 等で音源販売する Passage Extra というレーベルも始めている。 リリースしているミュージシャンは Pro-Tez や Highway と FUSELab で重なりがあるものの、 リリースしている音はダンス指向が弱めで、リスニング指向が強く、実験的な electronica もある。 補完するようなニッチをリリースしているという点でも、 Pro-Tez や Highway と併せて FUSELab も要チェックだ。

Modul が拠点とする街クラスノダールからは、 他にも Clapan や SLP、Sergei Zarin 等のDJ/プロデューサーが出て来ており、 南ロシア/北カフカスの techno/electronica の中心地となりつつある。 地理的な要因や政治的な不安定による移動の制約、 海賊盤で弱体化した音楽産業、インターネットのソーシャル・メディアの普及などの要因もあって、 旧ソ連 (ロシアやウクライナ、ベラルーシ) では モスクワに限らずローカルな音楽シーンが隆盛しているという。 そんなロシアのローカルでインデペンデントな音楽シーンを techno/electronica に限らず紹介するウェブサイトとして、 UCLA の Department of Slavic Languages and Literatures (スラブ文学科) がホストする ウェブサイト Far From Moscow はお薦めだ。