ポーランド (Poland) の主に jazz/improv の文脈で 2000年代以降に活動するミュージシャンを紹介するフェスティヴァルが、 その界隈とのミュージシャンとの共演が多い 内橋 和久 のディレクションで2晩にわたって開催された。 Jacek Kochan や Artur Majewski のように以前からフォローしていたミュージシャンも出演していたが、 多くはポーランドのシーンを紹介する The Wire 誌編集のコンピレーション Exploratory Music From Poland Vol. 1 (The Wire / AudioTong, ATCD01, 2009, CD) 及び Exploratory Music From Poland Vol. 2 (The Wire / AudioTong, ATCD01, 2010, CD) などで聴いたことがあった程度。 日本でライブが観られる良い機会ということで、初日を観て来た。 初日は現在活動しているグループの編成で20分ずつ演奏するショーケース・ライヴだった。 1グループ20分は短く物足りなく感じたセットもあったけれども、 おかげて、緊張を切らさず飽きずに見続けられたようにも思う。 とても良かったという感じではないが、興味深く観ることができた。 ちなみに、二日目は様々な組み合わせでのセッションだったのだが、 こちらは観ていない。 以下、それぞれのグループについて個別に。
ワルシャワ (Warszawa) を拠点に活動する2人組。 violin と clarinet という組み合わせらしく、 folklore 的なものを思わせるフレーズで始まったけれども、直ぐにそれを外れた。 楽器も持ち替えて、明確なフレーズを弾くというより様々な音を鳴らしていく。 electronics の音使いも、ビートを作るというより、その背景の通奏低音という感じだった。
北欧やニューヨーク (New York) のミュージシャンとの共演も多い ワルシャワの jazz/improv の drums 奏者 Jacek Kochan [関連レビュー] と 内橋 和久 のデュオ。 Kochan はCDで聴かれるような electronics 使いはせず。 一方で、cymbal にサワリのようなものを付けていた。 bass drums などの低音も使わず手数多め。 対する 内橋 の guitar も軽く浮遊感あるエフェクトをかけた guitar で 少々音のかたりのようなフレーズを繰り出していく。 そんな疾走感も少し感じる、軽く細かい演奏が気持ちよかった。 前半の中で jazz 的なニュアンスが最も強かったが、最も楽しめたのがこのセットだった。 これに、管楽器 (trumpet か soprano saxophone あたり) が絡むようなトリオでもっと聴いてみたかった。
ワルシャワを拠点に活動する2人組。punk / death metal 色濃い improv rock なのだが、 シリアスというより、コミカルな要素が強め。 Moretti は錯乱したかのような身振りで drums を叩き散らすし、 Zabrodzki も時折デス声を上げつつ半ば Moretti にちょっかいをだすかのように bass を演奏していた。 デタラメにやっていそうで要所では演奏を決めるので、ダラダラ感はなくメリハリがあったのは良かった。
ちなみに、SzaZa と LXMP は、いずれもワルシャワの独立系レーベル Lado ABC からリリースしているグループ。 このレーベルからはもっと pop 寄りのリリースもあり、 そんな所にもワルシャワのシーンの多様さが伺われる。
ここで前半は終わり。一旦休憩の後、後半に入った。
SzaZa の Zakrocki と、やはりワルシャワの Górczyński と、内橋 によるトリオ。 SzaZa と同じく violin - clarinet という組み合わせだけれども、こちらはもっと正統派の improv。 Górczyński はマウスピース+バレルを外して吹いたりしつつ、 それに対する Zakrocki と 内橋 の演奏も前半で聴かせたものより 少々アブストラクトな演奏を聴かせた。
ここまで出演したのは内橋を除くとワルシャワを拠点に活動するミュージシャンだが、 Majewski と Lebik はブロツワフ (Wrocław) を拠点としているミュージシャン。 レーベル Vytvornia Om がその拠点となっている。 Majewski は2000年前後から Robotobibok というグループで活動し [レビュー]、 現在は Robotobibok の drums 奏者 Kuba Suchar とデュオ Mikrokolektyw として活動している。 この Mikrokolektyw に 田中 を加えたグループと、 Lebik と Suchar による Slug Duo とが出演予定だったのだが、 Suchar が急遽来日中止となったため、Majewski - Lebik - 田中 というトリオ編成での出演となった。 Suchar の演奏も観てみたかったので少々残念。
Majewski - 田中 デュオでは Mikrokolekyw の曲を演奏していたが、 Majewski の軽くリバーブかかった trumpet は予想の範囲内だったが、 生で聴いたせいか、田中 の演奏が良かったのが、ドライヴ感がぐっと増していた。 少々チープな打ち込みリズムに田中の drums と合わさると立体的に聴こえるのも、面白かった。 後半に最も楽しめた演奏だった。
入れ替わるように入っての Lebik の演奏は、saxophone を吹くときもあったが、 むしろ laptop に向かって電子ノイズを作り出している時が多かった。 そこに 田中 の drums がメリハリを付けるような演奏だった。 Majewski と Lebik は一緒に Foton Quartet というグループでも活動しており、 そこではむしろ saxophone を吹き捲くっている。 曲の準備ができていなかったのかもしれないが、むしろ、 Majewski - Lebik - 田中 で Foton Quartet のような演奏を聴かせて欲しかったようにも思った。
LXMP、Mikrokolektyw と Slug Duo は Exploratory Music From Poland Vol. 1 (The Wire / AudioTong, ATCD01, 2009, CD) と Exploratory Music From Poland Vol. 2 (The Wire / AudioTong, ATCD01, 2010, CD) に収録されているのだが、 このコンピレーションとタイトルを取ったショーケースライブが、別途開催されていた。 観に行ったので、そちらについても合わせて軽くコメント。
Festiwal Nowej Muzyki Polskiej が jazz/improv 編としたら、こちらは electronic music 編だった。 ビデオ投影しつつ手作り風マニピュレータで演奏したりという所もあったが、 laptop に向かいつつ電子音テクスチャという所が基本で、続けて観ていて少々退屈したのも確か。 出演ミュージシャンを紹介するMCが無かったので、日本側のゲストを除き、誰が演奏しているのかよく判らなかったのも残念なイベントだった。 Festiwal Nowej Muzyki Polskiej に出演していたミュージシャンによる演奏を交えつつ、であれば、 もっと楽しめたかもしれない、と Festiwal Nowej Muzyki Polskiej を観ながら思った。 そういう点で、jazz/improv と electronic music で奇麗に住み分けてしまったのも、残念に思う。