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Review: Giovanna Pessi / Susanna Wallumrød: If Grief Could Wait
2011/12/18
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
Giovanna Pessi / Susanna Wallumrød
If Grief Could Wait
(ECM, ECM2226, 2011, CD)
1)The Plaint 2)Who By Fire 3)If Grief Has Any Pow'r To Kill 4)The Forester 5)A New Ground 6)You Know Who I Am 7)Hangout 8)O Solitude 9)Which Will 10)A New Scotch Tune 11)Music For A While 12)A New Scotch Tune, var. 13)An Evening Hymn
Recorded November 2010. Produced by Manfred Eicher.
Giovanna Pessi (baroque harp), Susanna Wallumrød (voice), Jane Achtman (viola da gamba), Marco Ambrosini (nyckelharpa).

Giovanna Pessi はスイスのバーゼル (Basel, CH) の harp 奏者。 古楽 (Alte Musik; Baroque 以前の classical music) の文脈で多くの録音を残しているが、 Christian Wallumrød Ensemble のメンバー等で ECM にも録音がある。 そんな彼女の ECM からの初リーダー作は、 Susanna & The Magical Orchestra で知られる女性歌手 Susanna Wallumrød との共作だ。

13曲中8曲がイングランドの17世紀バロック音楽 (Baroque music) の作曲家 Henry Purcell の歌曲を取り上げている。 baroque harp や viola da gamba の鈍い響きもそれを思わせるところがある。 これで Trio Medieval が歌えばいかにも ECM らしいバロック音楽のアルバムになるのではないかと思う。 しかし、Susanna の歌声はそういう classical なものではなく、 Susanne & The Magical Orchestra: Melody Mountain (Rune Grammofon, RCD2057, 2006, CD) でのポピュラーソングのカヴァーのように、緩く漂い、呟くように歌う。 英語の言い回しの古さが直接的に感じられないこともあるかもしれないが、 Henry Purcell の歌もまるで20世紀のポピュラーソングのように感じられる。

実際、このアルバムでも、Leonard Cohen のカヴァーを2曲 (“Who By Fire” と “You Know Who I Am”)、 Nick Drake のカヴァーを1曲 (“Which Will”) 歌っている。 残り2曲は Susanna Wallumrød の自作曲だ。 そんなカヴァー曲や自作曲での baroque harp や viola da gamba での伴奏は、 その少し濁って鈍い音色のおかげで、classical に大仰しいものにならず、 むしろ、少し goth の入った folk のようにすら聴こえる。 folk guitar の爪弾きアルペジオのような harp のフレーズに who? と畳み掛ける歌詞を載せる “Who By Fire”、 すこし舞い上がるような薄明るさを感じる “Which Will” が特に気に入っている。

このようなカヴァー曲だけでアルバム1枚通して制作しても This Mortal Coil のバロック版のようになって良さそうと思う一方、 それでは少々変わった伴奏でのカヴァー曲集の範囲に収まってしまったかもしれないとも思う。 そういう意味では、 Henry Purcell の曲を約半分入れているというのは良いのかもしれない。