共産政権時代からアンダーグラウンド活動するスロバキアの folk/roots の女性歌手の最新作 (といっても2年近く前のアルバムだが) は、 長年の共演してきている violin / mandoline Samo Smetana と jazz の文脈で活動する guitar 奏者 Miloš Železňák とのトリオ Trojka Z.H. 名義。 前作 Tvojej Duši Zahynúť Nedám: Ancient Slovakian Ballads (2005) と同じくブラチスラヴァ (Bratislava, SK) のレーベル Slnko のリリースで、 伝承曲の編曲だが、前作のようなテクスチャを強調するような音作りは控え目、 oud や kalimba のような楽器も使いつつアレンジの奇抜さは狙わず、 音数を抑えてぐっとアコースティックで落ち着いた音作りだ。 明瞭ながら優しい歌い口は変わらないが、歌声がぐっと前に出て、穏やかに歌い聴かせるよう。 そして、それが魅力的なアルバムだ。

kalimba や violin も軽快なタイトル曲 “Ňet Vekšeho Rozkošu [Nothing Like The Joy]” や oud と violin がかけあう “Prišli Gu Mne Žandare [Gendarmes Came To Me]” のような曲も良い。 しかし、そんな中で、 “A Tam Hore Na Hore [High Over On The Mountain]” や “Susedova Anička [Neighbour's Annie]” で Železňák の electric guitar のエフェクトで軽く歪んだ音が入ることにより、 アルバム全体に緊張感をもたらしている。

Homolova が東欧革命の年1989年にリリースしたアルバムが2010年にデラックス版で再発されている。 ボーナストラックとして1973年にリリースされたシングル音源2曲、 さらにアルバム音源をミックスし直した “Utajené album” をボーナスCDとして付けている。

1973年の音源は若い可愛らしい歌声で guitar 一本弾き語り。 「世界的な folk 運動の影響を受け」活動を開始したとは聞いていたが、こうして音楽を聴くと、 Joan Baez 的な女性 folk 歌手として活動を始めたのだなと良くわかる。 1989年のアルバムは他の楽器の伴奏を加えているが、1980s欧米のデジタルの音作りが流入る前、 keyboards の音もエフェクトもアナログで、1970s風の少々 psychedelic な folk という趣。 そのノスタルジックな雰囲気が気に入ってしまった。 ミックスし直した音源も、印象が大きく変わるような音弄りはしていない。

Homolova は Opus からもう一枚、チェコの jazz violin 奏者 Jiří Stivín とのデュオで Homolová & Stivín (Opus, 1991) というアルバムをリリースしている。 Bonton から一度リイシューされているが既に入手困難。 これをボーナスCDとして収録して欲しかった。もしくは、こちらも是非リイシューして欲しい。