氷を使った楽器の演奏で知られる Terje Isungset の久々の氷楽器の音楽集。 2006年にアニュアルで氷の音楽祭 Ice Festival を開始、 All Ice というレーベルも設立して Igloo (All Ice, 0601, 2006, CD) から毎年1枚のリリースを続けていた [関連レビュー]。 しかし、氷楽器の演奏活動は精力的に継続しているものの、CDのリリースは Winter Songs (All Ice, 1006, CD) を最後に止まってしまい、 さすがに息切れかなと思っていた。
久しぶりの All Ice のリリースは、2010年から2014年の間、 グリーンランド、ロシア、ノルウェイ、イタリア、カナダ、スウェーデン、フランスと 世界各地での、氷を使った楽器によるライブで録り溜めた音源からのアルバムだ。 南極点や数百年前の氷河といった古い氷から、できたばかりの氷まで、様々な氷が使われている。 といっても、例えば一聴してわかるような違いがあるわけでなはなく、コンセプトとして楽しむものだろう。 鈍く澄んだ氷の鳴る響きや、シャリシャリという削れた氷の音など、相変わらず楽しめる作品だ。
しかし、以前の録音に比べて、音の輪郭がはっきりした音楽らしくなっている。 以前は共演するミュージシャンの使う楽器も氷楽器ばかりで、音程や音の始まり終わりのはっきりとしない、とりとめのない音世界だった。 しかし、このアルバムでは、氷楽器以外の楽器も使われている。 特に、時折入る double bass や viola d'amore のフレーズは、輪郭線を引くよう。 Reidar Skår の電子音も浮遊的ではっきりビートを刻むわけではないが、氷の響きとは違う低音の強さと明瞭さがある。 氷楽器についても、良く鳴るように制作したりクリアに録音するノウハウが蓄積されているのかもしれない。 “H2O Cycle” のようにグルーヴを感じるような曲すらある。 それはそれで気に入っているが、洗練されて聴きやすくなり過ぎたようにも感じてしまった。
All Ice の最新リリースは、Isungset が brass 奏者の Arve Henriksen と取り組んでいる 氷ではなくガラスの楽器のプロジェクトのもの。 2011年の欧州文化首都のイベントとしてエストニア・タリン (Tallinn, ES) で実施したプロジェクトが契機で、 Estonian Academy of Arts のガラス作家及びその学生たちの制作したガラスで作った楽器を演奏している。 このCDはその2011年のライブ録音がベースとなっている。
砕いたガラスをシャリシャリと鳴らす音もあり、鈍く澄んだ音世界は氷楽器にかなり近い。 しかし、氷に比べて、響きが高く澄んでいてくっきりしているだろうか。 ガラス楽器のみのとりとめない音の織りなす音世界という点では、 Meditations よりも、以前の All Music のリリースに近い音が楽しめるアルバムだ。
このプロジェクトはその後も活動を続けており、2015年12月にはノルウェーとスウェーデンをツーアする予定だ。 氷の楽器は場所や時期を選ぶが、ガラスの楽器は氷ほどの制約は無い。 このプロジェクトで来日してくれれば、とも思う。