フランスのナント (Nantes, FR) で1995年に始まったクラッシックの音楽祭 La Folle Journée。 その東京版 La Folle Journée Tokyo (始まった当初は La Folle Journeé au Japon) が2005年からゴールデンウィークで開催されています。 通し券はなく指定席ですが、会場や料金も含め、いわゆるクラッシックの「音楽祭」というよりジャズフェスなどに近いフォーマットの「音楽フェス」です。 ゴールデンウィークは ふじのくに⇆せかい演劇祭 や TACT/FESTIVAL で潰れてしまいがちなのですが、 今年は、ふじのくに⇆せかい演劇祭のパスポートチケットが取れず、TACT/FESTIVAL の時期がずれたので、 これも良い機会かと、今年の初日、ゴールデンウィーク後半の5月3日に、La Folle Journée Tokyo に足を運んでみました。 今年のテーマは “Un Monde Nouveau” 「モンド・ヌーヴォー 新しい世界へ」ということで、 非西洋音楽というかワールドミュージックに近いプログラムが多いように感じました。 そんなこともあって、いわゆる古楽やワールドミュージックに近いプログラムばかり観てしまいました。 クラッシックとはいえPAを使ったライブでしたし、 自分の好みど真ん中の演奏に出会えたわけではありませんが、十分以上のレベルの演奏を楽しむことができました。 ライブ三昧な一日というのも良いものです。というわけで、観たステージについて個別に軽く。
タイトルに “Salam” が入っているように 中世スペインのキリスト教徒、イスラム教徒とユダヤ教徒の音楽のプログラムということでしたが、 演奏曲目を見ると、今回はイスラム教徒の曲は無かったよう。 会場で配られていたパンフレットには楽団の個々のメンバーのクレジットが無かったのですが、 男女2名の歌手と楽器演奏者9名の編成で、 楽器演奏者は前列7名上手から、oud、kanun、viola da gamga 等 viol 系の楽器、rebec もしくは Cretan lyra と viol 系の楽器、nyckelharpa、recorder、ney、 後列上手から、percussion、frame drum/darbuka という感じに見えました。 セファルディの曲ということで、Savina Yannatou & Primavera En Salonico [鑑賞メモ] などで 聞き覚えのあるメロディに近い曲もやりましたが、 歌手の歌い方や、即興で大きく外れることの無い演奏など、クラッシック寄りの端正さでした。 それでも、その旋律や古楽や中東の楽器の音色はかなり好みで、楽しむことができました。
Buda Musique から多くのリーダー作をリリースしているクレツマーの clarinet 奏者 Yom と、 最近では Melanoia & Quartuor IXI: Red - Music by Luzia von Wyl (Budapest Music Centre, BMCCD238, 2016, CD) など クラシック良いうよりジャズ/即興に近い文脈で活動するフランスの string 4tet Quatuor IXI の共演。 星間旅行をイメージしたというノンストップ45分の演奏でした。 不協和音も多用するけど、時に Yom がクレツマーのイデオム強いフレーズを吹き上げる時もあって、 アブストラクトに過ぎない演奏でした。
クラシックの文脈で活動を始めたチェコ violin 奏者 Pavel Šporcl による、 dulcimer (cimbalom) を含む中欧 (チェコというよりハンガリーに多いですが) ジプシー楽団のプロジェクト。 ジプシー音楽のイデオムを用いた19世紀のクラッシックの曲を、ジブシー楽団風の演奏で。 元の曲のせいもあるのか普段聴き慣れているジャズ〜ワールドミュージック文脈での演奏に比べて端正でしたが、 dulcimer の生音も含めて、十分に楽しめました。
1960年代からジャズの文脈で活動するフランスの accordion 奏者 Richard Galliano。 2010年代に入ると Deutsche Grammophon からクラッシックや映画音楽の曲の録音を残すようになっていて、 このライブも Claude Debussy や Michel Legrand の曲を交えるなど、その色を感じる選曲でした。 技巧的な早弾きとか特殊奏法とか駆使するようなものではないものの、淡々というより能弁、ゴージャスな accordion のソロ演奏を堪能することができました。
イギリス出身のシンガーソングライターながら、2000年代以降、 Label Bleu や Tôt ou Tard, No Format といったフランス独立系レーベルからのリリースが多い Piers Faccini。 今回の編成は oud を含み、セファルディやアラブアンダルス、イタリアやアルジェリアの曲を取り上げるなどワールドミュージック的な色が強いものでした。 名前からしてイタリア系ですし、家系図にはスペイン・コルドバから亡命したユダヤ女性(ということはセファルディムか)がいるとのことで、そんな複雑なルーツを反映した選曲なのでしょうか。 しかし、いろいろ取り上げてているのにフォークロック的な SSW 臭が抜けないのは、その英語での歌い口のせいでしょうか。