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Review: Music and Poetic Drama Laboratory presents Saadet Türköz, Аня Чайковская, Мария Корнева, Sainkho Namtchylak: Eurasian Opera Tokyo 2018 - Incredible sound vision of Eurasia in Tokyo (live) @ Super Deluxe, Tokyo
2018/10/14
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
音楽詩劇研究所 presents Saadet Türköz, Аня Чайковская, Мария Корнева, Sainkho Namtchylak
SuperDeluxe
2018/09/30 17:30-19:00
Saadet Türköz (vocals), Аня Чайковская [Anya Tchaikovskaya] (vocals), Мария Корнева [Marya Korneva] (vocals), Sainkho Namtchylak (vocals), 八木 美知依 [Michiyo Yagi] (箏 [koto]), 河崎 純 [Jun Kawasaki] (contrabass), 石塚 俊明 [Toshiaki Ishizuka] (drums, percussion), チェ ジェチョル [崔 在哲, Choi Jae Chol] (chang), 黒田 鈴尊 [Reison Kuroda] (尺八 [shakuhachi]), 大塚 惇平 [Jumpei Ohtsuka] (笙 [sho]), 小沢 あき (guitar), 亞弥 (dance), 三浦 宏予 (dance), etc.

トルコや旧ソ連圏の jazz/improv やそれに近い folk の文脈のミュージシャンとパフォーマンスを伴うライブというか音楽劇を制作してきている 河崎 純 の音楽詩劇研究所 [2011年の鑑賞メモ]。 今回のプロジェクトではトルコからシベリアにかけての4人の女性歌手をフィーチャーし、 Continental Isolation と題した “Eurasian Opera” を 9月27, 28日に座・高円寺2で上演したのですが、そちらは都合が合わず。 30日のコンサートの夜の部を観ました。 4人の歌手は一緒に歌うことはなく順に登場してそれぞれ歌うというもの。 2名のダンサーも登場しましたが、座・高円寺2での公演とは違いコンサートということで、踊るスペースも十分に無く演出的に目立つということもなく、あくまで演奏中心。 台風24号が接近し鉄道運転見合わせも計画されていたため19時終演と決めての予定より短めのコンサートでした。

最初に登場したのは、ロシア・シベリア地方イルクーツクを拠点に活動する Мария Корнева [Marya Korneva]。 小沢 あきの guitar と大塚 惇平 の笙の伴奏で、時にクラシカルに、時にジャズ・ボーカル風に、オーバートーンの歌唱も少し交えて。 ハイトーンというかソプラノな声は綺麗で、リズム隊の無い控えめな伴奏もあって、エアリーにも感じました。 さらに 八木 美知依 の箏が入って少し歌いました。

続いて、前に観た Sound Migration [鑑賞メモ] にも参加していた Saadet Türköz。 トルコ・イスタンブールを拠点に活動する、東トルキスタンのカザフ系をルーツに持つ歌手です。 箏だけの伴奏で舞台脇でオペラに出演していた歌手と思しき人たちとひとしきり声を出し合った後、 八木 の箏(主にベース箏)と チェ ジェチョル の韓国の伝統的な打楽器 chang の作り出すヒプノティックなビートに合わせて 迫力あるシャーマニックで抽象的な歌唱を聴かせてました。 さらに、伴奏が 河崎 純の bass と 石塚 俊明の drums に替わってしばらく歌いました。

三番手は、ウクライナ出身で最近はロシア・サンクトベテルブルグを拠点に活動する Аня Чайковская [Anya Tchaikovskaya] 黒田 鈴尊 の尺八と 石塚 の繰り出す軽いパーカッションのみの伴奏で、ウクライナの民謡をベースにしたという歌を。 口に篭るように響かせつつ最後にしやくり上げるようないかにも東スラブの民謡を思わせる歌い口ですが、 Сергей Старостин [Sergey Starostin] のプロジェクト等などロシア〜東欧の民謡に基づく音楽のCDで聴いたことはありましたが、 生で聴いたのは初めてかもしれません。 尺八の音も、低音 Калюка (ロシアの伝統のエアリードの管楽器) のようで、歌唱に合っていました。 途中、東スラブというより、東地中海かバルカンを思わせるような節回しの歌も一曲耳に残りました。 最後は、ベース、箏に日本の歌手も加わって、日本の子守唄風の歌から、いつの間にかウクライナ民謡風に繋ぎました。

最後はロシア・シベリア地方はトゥバ共和国出身で、ソ連時代から jazz/improv の文脈を中心に活動を続ける Sainkho Namtchylak。 drums と chang の繰り出す強いビートと掛け合うように、jazz 的なスキャットではないものの、リズミカルなヴォイシング。 伝統的なオーバートーン歌唱ホーメイ (Хөөмей) でも知られるわけですが、後半に少し使っただけでした。 経歴からして結構な年齢かと思いますが、まだまだ衰えを感じさせないパフォーマンス。 昼の部にも出演していたということもあり、他の3人より短めでした。

様々な国・地域のミュージシャンを集めてのプロジェクトというのは、得てして顔合わせしたというレベルに留まってしまうことが多いのですが、 組み替えながらも小編成で演奏したこともあってか、音に多様性もあり、期待以上に楽しめました。 4人の歌手で90分、一人あたり30分も無かったこともあり、物足りなさも感じました。 特に、Аня Чайковская [Anya Tchaikovskaya] の歌声がとても気に入りました。 サンクトベテルブルグの jazz/improv のミュージシャンたちと新作を録音したとのこと、 それがリリースされるのを楽しみにしています。

会場は六本木の西麻布寄りにある SuperDeluxe。 1990年代、麻布十番にあった建築事務所 Klein Dytham architecture の一角にあったオルタナティブスペース Deluxe が、 移転拡大する形で2002年にオープンしたスペースです。こ この SuperDeluxe から、2019年1月閉店のお知らせが出ました。 理由は「ビルの老朽化により賃貸契約が継続不可となった為」。 Deluxe はさほどでもなかったのですが、SuperDeluxe になってからは主に jazz/improv のライブを目当てに年数回足を運んできました。 ダンス等のパフォーマンス、インスタレーション、建築やデザインのトークなど、多様なイベントに使われていて、そういうイベントで行ったこともあります。 古いビルの地下のコンクリート打ちっ放しの空間に、空調照明以外ほとんど手を入れず、 イスやテーブルを並べ替えることで自由にレイアウトできる、まさにオルタナティヴスペースという雰囲気が好きです。 お知らせによると、「この先にも新しい実験を出来る場を提供する準備も進めています」とのこと。そちらも期待します。