Winter & Winter レーベルを主宰する Stefan Winter の Sound Art のプロジェクトが 東京・春・音楽祭 2020 のプログラムとして上演されました。 2018年にドイツ文化会館で上演された Gedicht einer Zelle - Triptychon der Liebe und Ekstase - Klang- und 3-Kanal-Film Installation が良かったので [鑑賞メモ] 楽しみにしていたのですが、 新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、公演はキャンセルとなり、 (株)インターネットイニシアティブ (IIJ) の配信協力により無観客上演の無料ライブストリーミングとなりました。
サーバの能力を超えたアクセスがあったためか、音声は途切れがち。 後半はサーバとほとんど繋がらなくなり、エンディングを見ることもできませんでした。 まともな鑑賞ができたとは言い難いのですが、 Ludwig von Beethoven の曲を即興を交えて解体再構築した音楽は、jazz 的な要素が薄く室内楽的ではあるものの、 Winter & Winter からリリースされていた Uri Caine Ensemble による Mahler, Wagner, Bach などの音楽を解体再構築するプロジェクトを思い出しました。 art of noise and sound (ノイズアート) とクレジットされた2人が アンサンブルの前にインスタレーションのように並べられたオブジェ群を使って波や風のような音から 不穏なサイレン様の音まで、様々な音を出していたのですが、 舞台に動きを作り出していましたし、 Winter & Winter の AudioFilm シリーズに入っている効果音をライブにするとこうなるのか、という面白さもありました。
ビデオインスタレーションはHDのアスペクト比を縦長にした1面のみ。 Gedicht einer Zelle - Triptychon der Liebe und Ekstase - Klang- und 3-Kanal-Film Installation では Noriko Kura [倉 紀子] による “Living Painting” をメインにフィーチャーしていましたが、 この作品では Aki Tsujita [辻田 暁] による “living sculpture”。 白く光をバックにして、ベール状だったり体にタイトに巻きつけた布様だったりする衣装を着た彼女の上に、 実写ながら抽象度高めのコントラストと彩度の高い映像を投影していました。 実際に絵の具を浴びるのではなく映像を投影するものですが、近いものを感じました。 その一方で、動きも少なく、東アフリカ・ザンジバルの浜や廃墟のような建物が映し出されることはありませんでした。 その結果、あくまで演奏の方が主体で、その象徴的な像を背景に掲げているかの様な演出と感じました。
プログラムの作家の言葉として Stefan Winter は、 Beethoven を選んだ理由として、Beethoven が意図せずして専制君主の英雄となってしまうことを挙げ、 そしてその “An die Freude [Ode to Joy]” (歓喜の歌) に、 欧州難民危機の中で起きた2013年のランペドゥーザ島難民船沈没事故や 古典主義的ながらロマン主義の先駆と言われる Théodore Géricault の絵画 “Le Radeau de la Méduse” 「メデューズ号の筏」 (1818-1819) を重ねています。 しかし、“An die Freude [Ode to Joy]” を使った最後の Part III - 3. の場面を観ることができなかたこともあるのか、 この作家の言葉と演奏や投影されていたビデオとの関係を感じ取ることはできませんでした。
公演がキャンセルになり、代わりの無観客ライブストリーミングもズタボロと、残念な限りでした。 その一方で、静かな展開の時は音があまり途切れず、激しめの展開、特に立ち上がりの急な音が続くと音が途切れがちという、 非可逆圧縮の音声コーデックの特性が音からうかがえるような所が興味深く感じられました。 ストリーミングだけでなく録音録画もされたと思うので、いずれ Winter & Winter レーベルからCDもしくはDVDとしてリリースされることを期待しています。