TFJ's Sidewalk Cafe > Cahiers des Disuqes >
Review: L'Ensemble K: « Charlie », opéra de poche de Bruno Giner (concert) @ Kanagawa Prefectural Music Hall, Yokohama
2021/11/07
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
神奈川県立音楽堂
2021/10/30, 15:00-17:30.
L'Ensemble K: Adèle Carlier (soprano), Elodie Haas (violin), Xavière Fertin (clarinet), Marie Viard (cello), Sébastien Dubourg (piano), Grégory Massat (percussion).
第1部:「禁じられた音楽」による室内楽コンサート
Bertolt Brecht / Kurt Weill: Complainte de Mackie Messer de l'Opéra de Quat'sous (1928); Maurice Magre / Kurt Weill: Complainte de la Seine (1934); Roger Fernay / Kurt Weill: Youkali (1935); Bertolt Brecht / Kurt Weill: Kanonen-Song de l'Opéra de Quat'sous (1928); Erwin Schulhoff: Duo pour violon et violoncelle (1925) 2ème mvt « Zingaresca »; Paul Dessau: « Guernica » nach Picasso pour piano (1937); Bruno Giner: Paraphrase sur « Guernica » de Paul Dessau (2006).
第2部:オペラ「シャルリー」
Bruno Giner: Charlie de poche d'après la nouvelle “Matin brun” de Franck Pavloff (2017)
Metteur en scène: Christian Rätz Lumière et technique: Anthony Auberix
Production: Ensemble K; Coproduction: CCAM – Scène nationale de Vandoeuvre-lès-Nancy
Première: 11 février 2018, CCAM de Vandoeuvre-lès-Nancy
Création: le 8 octobre 2008 par l’ensemble Aleph, Lubjana.
第3部: ブルーノ・ジネールとのトークセッション
やなぎみわ (美術作家, 舞台演出家), Bruno Giner (作曲家), 井上 はるか (神奈川県立音楽堂プロデューサー), 加藤 リツ子 (トーク翻訳).

原作に親しんでいたわけでなく、作曲家もこの作品で知った程でしたが、 「ポケット・オペラ」 (Opéra de poche) というスタイルと ティーザー映像 [YouTube] に、 また、ナチスに Entartete Musik (退廃音楽) とレッテルを貼られ禁じられた戦間期の音楽を集めた第1部の選曲に引かれて、足を運んでみました。

第1部の前半は歌物で、 ナチスにドイツを追われアメリカ亡命前のパリ時代に Weill が作ったフランス語のシャンソン2曲も取り上げていました。 Brecht / Weill は演劇の文脈での上演やジャズ/ロックのカバーでは高音部をオクターブ下げて歌われるのが普通ですが、 そうでないところにクラッシック・コンサートらしさを感じました。 また、Brecht とのドイツ語の歌やアメリカ時代の英語の歌 (“Speak Low” とか) は聴く機会がそれなりにありますが、シャンソンはほとんどありません。 特に “Youkali” など Weill らしい旋律にフランス語の歌詞が新鮮に感じられました。 Weill のシャンソンをもっと聴きたくなりました。

第2部は Charlie。 2000年代に欧州での極右の台頭を受けてベストセラーとなったディストピア短編小説ですが、 茶色い猫のペットを禁止がエスカレートしてついに主人公 Charlie の逮捕に至る話は Martin Niemöller に言葉に基づいて作られたナチスの台頭を戦争直後に描いた詩 “Als die Nazis die Kommunisten holten” 『彼らが最初共産主義者を攻撃したとき』を思い出させる物語です。 トークセッションの Bruno Giner も、原作の短編が話題となった文脈というよりも (全く無関係ではないと思いますが)、 第1部の選曲同様、戦間期への興味が創作のベースにあるようでした。

アンサンプルの前に白い半透明の紗幕を下げ、その前の空間で5脚の椅子などを使い、 そこを Charlie の部屋に見立て、ソプラノ歌手が Charlie を演じます。 ベルカントのようなオペラ的な歌唱はあまり使わず、低いセリフのような歌唱やアンサンプルも含め掛け声も使うので、 「ポケット・オペラ」というより、生伴奏付き一人芝居風音楽劇を観ているようでした。 といっても、ソプラノ歌手だけが一人で演じ続けているだけでなく、アンサプルのミュージシャンも、 紗幕の裏で声をかけたり新聞を読むような演技をしたり、紗幕の前から出てきて自警団員などの役を演じます。 そんなアンサンブルの介入が Charlie の平穏な生活を異化する演出が良かったです。

トークセッションでは男性主人公 Charlie を女性のソプラノ歌手が演じるという点も異化作用を狙ったものとのこと。 確かに、新聞で競馬の情報を得たりサッカーをTV観戦したりと女性らしからぬ場面も無いわけではないですし、 フランス語に通じていないので自分にはわかりませんでしたが、歌詞も男言葉だったのかもしれません。 そういった点が掴めなかったので、若い女性が主人公の話として異化を感じることなく観てしまいました。 といっても、音楽劇という形式もあって、リアリズム的な面からは逃れていて、ディストピア物の陰鬱さを抑えられ、可愛らしいというか、寓話的。 その演出は、Brecht 劇というより、Olivier Py のグリム童話 [鑑賞メモ] に近いものを感じました。