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Review: Midori Hirano, Atsuko Hatano, Kei Matsumaru, Akiko Nakayama: Water Ladder Live (live) @ SPREAD, Shimokitazawa, Tokyo
2022/11/06
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
下北沢 SPREAD
2022/11/03, 20:00-22:00.
平野 みどり [Midori Hirano] (keyboards, effects), 波多野 敦子 [Atsuko Hatano] (viola, effects), 松丸 契 [Kei Matsumaru] (alto saxophone, effects), 中山 晃子 [Akiko Nakayama] (alive painting).

The Notwist の Micha & Markus Acher のレーベル Alien Transistor から昨年末リリースされたアルバム Atsuko Hatano & Midori Hirano: Water Ladder (Alien Transistor, N76CD, 2021, CD) が良かったので、 ベルリンを拠点に活動する平野が日本に戻ったタイミングで開催された一年遅れの一夜限りのリリース・ライブを聴いてきました。 波多野、平野に加え、ゲストにサックスの 松丸 契、そして、中山 晃子 のビデオ・プロジェクションを加えた編成で、 下北沢のビル地下のコンクリート打ちっぱなしこぢんまりとしたバーカウンターのあるクラブを会場に、 ほぼ会場いっぱい30脚ほど丸椅子を並べて着席での、2セット2時間弱のライブでした。

全編、サックスのアクセントも効いたピアノ(キーボードでしたが)とヴィオラの 深いエフェクトがかった音が織りなすテクスチャに包まれるようなライブでした。 1stセットは冒頭こそ松丸のサックスから始まるもののすぐに下がってほぼデュオでの演奏で、 休憩を挟んでの後半はトリオでの演奏になりました。 松丸のサックスはフレーズをはっきり吹くのではなく、かすれたような音や、そもそもリードを鳴らさずにパッドを開閉する音だけを使い、 それをマイクで拾ってエフェクタやルーパーで音を展開していきます。 波多野のヴィオラもエフェクタやルーパーを駆使したものですが、 ピチカートやアルコ弾きでの反復感強めのフレーズから始まります。 後半は若干機材トラブルがあったか、床に並べたエフェクタに向かっている時間が長めでした。 波多野や松丸と比べると平野はさほどエフェクタを使わず、 キーボードによる調性的なものの反復感の強いピアノ音のフレーズが耳に残りました。 アルバムではエフェクタによる音響の向こうに少し引っ込んだように楽器音が鳴っていましたが、 ライブで聴くと演奏する姿が見えるせいか、元の楽器音もエフェクトと対等に聴こえ、 こんなにもメロディアスだったかと新鮮でした。

中山の “alive painting” のビデオ・プロジェクションは、 『ボンクリ・フェス 2022』の「箏の部屋」での八木 美知依 Talonのライブ [鑑賞メモ] に続いて、今年2回目。 ライブで作る溶剤の作る界面や泡やその中の粉の動きを 半ばミュージシャンに被るようにミュージシャンたちの背面の壁に投影します。 前半はおそらくビデオの段階で色を落としてモノクロでの投影も、 強くエフェクトがかった音世界に合っていました。 後半はいつものようにカラフルな映像で見せました。

『ボンクリ・フェス 2022』で「箏の部屋」や「プンクトの部屋」を観て以来、 かつて六本木 SuperDeluxe でやっていたような オルタナティヴ・スペース的な会場で映像や光の演出も交えてのライブをもっと観たいと思っていたところだったので、 そんな欲求を十分に満たすことのできたライブでした。

先日の Brecht-Tokyo-2022 に続いて、こぢんまりしたハコでのライブのリハビリです。 今回は2020年にオープンしたばかりという初めての会場へ行きました。 普段はクラブとして営業しているようでしたので嫌な予感がしていたのですが、かなりヤニ臭い会場でした。 当日はドア外で喫煙している人は少なからずいたものの会場内は禁煙だったので、終演後、燻されたようにはならずに済みましたが。 2000年代半ばくらいまでは会場内喫煙可のクラブやライブハウスへ行くこともそれなりにあったのですが、 気付けば15年近くそんな会場から遠ざかっています。もはや、喫煙可でのライブは耐えられないだろうなあ、と。