Matthew Barney は1980年代末からニューヨーク (New York, NY, USA) を拠点に 活動する立体作品と映像作品を中心に制作している美術作家だ。 『拘束のドローイング9』 (Matthew Barney (dir.), Drawing Restraint 9, 2005) は、 『拘束のドローイング』 (Drawing Restraint) 展 (金沢21世紀美術館, 2005) でのプレミア上映のために日本で撮影された映画だ。 『マシュー・バーニー: 拘束なし』 (Alison Chernick (dir.), Matthew Barney: No Restraint, 2007) は、その映画制作のドキュメンタリーだ。
Drawing Restraint と銘打っているが、 スポーツをしながらドローイングする一連のシリーズとの共通点はほとんど感じられない。 むしろ、『クレマスター』シリーズ (The Cremaster Cycle) に近い、ドロドロ質感への拘った、シュールな大人向けのファンタジー映画だ。 Barney はどろどろのワセリンの質感への拘りが強いが、 今回はそれを鯨の皮下脂肪とを結びつけている。 日本の捕鯨船 日新丸 に乗ってロケを行い、 鯨の捕獲や解体などの様子を Barney ならではのオブジェへ鯨を置き換えて 象徴的に映像化している。
その一方で、この映画は Barney の私生活でのパートナーでもある alt 寄りの pop 文脈で活動するアイスランド (Iceland) 出身の歌手 Björk と共演し、 結婚式的なセレモニーを通して2人が鯨となって陸から海へ戻るという話の流を持っている。 この少々ロマンチックな話が骨格にあるため、 『クレマスター』に比べて話が追いやすい、判りやすい作品になったように思う。 Björk の音楽もコンセプチャルに過ぎずポップな要素を残しており、 ロマンチックなストーリーと併せ、 『クレマスター』シリーズに比べてぐっと商業映画に近くなったように思う。
日本文化の扱いについては、長州出島に阿波踊りは無いだろう、とか、 花嫁花婿衣裳でお茶室というのもかなり変だとか、 気になる所が無かったわけではないが、ま、こんなものだろうか。 Barney が日本のどういう所に興味を持ったのか垣間見たように思った。
『マシュー・バーニー: 拘束なし』は『拘束のドローイング9』の 制作から公開へのエピソードを軸に、 Barney のライフストーリーも辿るドキュメンタリーだ。 『拘束のドローイング』が判りやすい作品だったので、 そういうことだったのかと思うよりも、やっぱりそうかと思うことの方が多かった。 しかし、Barney の映画は細かい仕掛けも多いので、併せて見るというのも悪くないだろう。