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Review: 『ミッシング・ピース 東京展』 (The Missing Peace: Artists Consider The Dalai Lama, Tokyo 2008) @ 代官山ヒルサイドテラス (美術展)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2008/10/26
代官山ヒルサイドテラス (ヒルサイドフォーラム, スタジオヒルサイド, ヒルサイドプラザ)
2008/10/17-11/09 (会期中無休), 11:00-19:00 (金11:00-21:00).
Marina Abramovic, Seyed Alavi, Jane Alexander, El Anatsui, Laurie Anderson, Richard Avedon, Kirsten Bahrs Janssen, Chase Bailey, Sanford Biggers, Phil Borges, Dove Bradshaw, Guy Buffet, Dario Campanile, Andy Cao, Squeak Carnwath, Long-Bin Chen, Christo & Jeanne-Claude, Chuck Close, Bernard Cosey, Santiago Cucullu, Binh Danh, Lewis deSoto, Peig Fairbrook & Adele Fox, Era & Don Farnsworth, Spencer Finch, Sylvie Fleury, Adam Fuss, Juan Galdeano, Rupert Garcia, Richard Gere, Losang Gyatso, David & Hi-Jin Hodge, Jim Hodges, Jenny Holzer, Tri Huu Luu, 池田 一 (Ichi Ikeda), Ilya & Emilia Kabakov, Anish Kapoor, Kimsooja, 宮坂 宥明 (Yumyo Miyasaka), Gabriela Morawetz, Tom Nakashima, 根岸 芳郎 (Yoshiro Megishi), Dang Ngo, Michele Oka Doner, Tenzing Rigdol, Michal Rovner, 坂本 龍一 (Ryuichi Sakamoto), Sebastião Salgado, Salustiano, Andra Samelson, Jaune Quick-to-See Smith, Mike and Doug Starn, Pat Steir, Adriana Varejão, Bill Viola, Inkie Whang, 山口 由理子 (Yuriko Yamaguchi).

チベット仏教 (Tibetan Buddhism) の最高指導者 ダライ・ラマ14世 (14th Dalai Lama) の メッセージ、ヴィジョン、活動からインスピレーションを得た 現代美術の作品を集めた大規模な国際巡回展だ。 2006年のロサンジェルス (Los Angeles, CA, USA) に始まり アメリカ (USA) 各地を巡回した後に、東京にやってきている。 もともとは89作家が参加した展覧会とのことだが、 東京展は展示スペースの都合上、30ヶ国60作家の参加となっている。 現代美術の文脈で活動する作家が中心で、著名な作家も多く参加している。 代官山ヒルサイドテラス内の3箇所を使い60点の作品を展示していた。

直接的にチベット (Tibet) や もしくはダライ・ラマ14世を取り上げた作品もあったが、 むしろ、抽象的に平和や文化的多様性を主題としている作品が目立った。 また、ベトナムやカンボジアの内戦や最貧国の問題を扱った作品もあった。 チベットを直接的に扱わない作品の方が面白く感じられた。 ドローイングは少く、コンセプチャルな立体作品や 映像や音声を使った作品が多く、 最近のバブルになる前の現代美術展の雰囲気を感じた。 そして、自分が興味深く感じた所も、 ダライ・ラマ14世のメッセージに関連する所ではなく、 コンセプチャルな現代美術展といった所だった。

最も印象に残ったのは、旧ユーゴスラビア (Yugoslavia) 出身の作家 Marina Abramovic (関連レビュー のビデオ作品 "At The Waterfall" (2000-2003)。 チベット仏教の5宗派120人の僧侶が読経する様子をバストアップで捉えた映像を 高さ2m×幅10m弱程の壁にマトリクス状に敷き詰めて一度に上映した作品だ。 テクスチャのようになった画面も面白かったし、 声の重なり合いも音楽的というか音響的な所が良かった。

このような多声性を意識した作品としては、 スピーカ付きスタンドに立てた iPod を20台ほどサークル状に並べて 100人以上の人に行ったインタビューを上映していた David & Hi-Jin Hodge の "Impermanence: The Time Of Man" (2005-2006)。 シーケンシャルに一人ずつ上映しているときと様々な声が交じりあうときがあった。 ただ、インタビューのテーマが抽象的で、語りも読経のように音楽的ではないため、 Abramovic の作品と比較してコンセプチャルに過ぎる印象も受けた。 初めて作品を観た作家だが、 アメリカ (USA) 西海岸を拠点に主にデザインの文脈で活動しているようだ。

平面や立体の作品は数多い作品の中では印象が薄れがちだったが、 そんな中で印象に残ったのが、ブラジル (Brazil) の作家 Adriana Varejão の "Ander Com Fé" (2000)。 去年原美術館で観た個展 (レビュー) とは また異る作風の写真作品だった。 地面から跳び上がった人の足を地面ぎりぎりの視点から捉えた写真だ。 意味深長だけれども何を象徴的に表現しているというのとも違う所が引っかかったし、 ぼやけた遠景にくっきり写った足と地面と捉えた全体に赤土色の色合いの画面が美しかった。 本やレコードのジャケットに使っても映えそうだ。

作品数が多過ぎて、個々の作品にじっくり向き合おうにも集中力が続かない。 一通りざっと流して観た後、気になった作品だけじっくり観たい所だったが、 3会場に分かれていたうえ再入場が出来なかったために、 半端に流して半端に向かい合うような感じになってしまったのは残念。 東京都現代美術館や新国立美術館のような 規模の大きな美術館で開催するのに向いた企画だったように思う。