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Review: El Colegio Del Cuerpo, Cuarteto Para El Fin Del Cuerpo @ 六行会ホール (ダンス)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2008/10/30
El Colegio Del Cuerpo
Cuarteto Para El Fin Del Cuerpo
六行会ホール
2008/10/29, 19:00-20:00
Álvaro Restrepo: dirección artística. Marie France Delieuvin, co-directora.
Music: Olivier Messiaen, Quatuor Pour La Fin Du Temps (1941).

El Colegio Del Cuerpo (「身体の学校」という意味) は1997年に活動を始めた 南米コロンビアのカリブ海沿岸、カルタヘナ (Cartagena de Indias, Colombia) を 拠点とする contemporary dance のカンパニーだ。 ニューヨーク (New York, NY, USA) で Martha Graham の下で学んだという 地元カルタヘナ出身 Álvaro Restrepo と、 フランス (France) 人の Marie France Delieuvin によって設立された。 貧困家庭の子供たちを対象とした教育プログラムを持ち、 そこで訓練・教育を受けたダンサーによって作品を作る community dance (関連発言) の カンパニーとして知られている。 イギリス (UK) の community dance の組織 Foundation for Community Dance の機関誌 Animated にも、 "The College of the Body / El Colegio Del Cuerpo" (Autumn 2002) や "Marrying Artistic and Social Agendas Through Dance in Colombia" (Spring 2006) というこのカンパニーを紹介する記事が載っている。 コロンビアの contemporary dance という珍しさもあったが、 自分がこの公演に興味を持ったのは、むしろ、community dance という面だった。

上演した作品 Cuarteto Para El Fin Del Cuerpo (「身体の終わりのための四重奏曲」の意味) は、 フランスの現代音楽の作曲家 Olivier Messiaen の曲 Quatuor Pour La Fin Du Temps (「世の終わりのための四重奏曲」の意味) に合わせて16人のダンサーで踊る作品だ。 この日本公演では、全て El Colegio Del Cuerpo のダンサーではなく、 日本人ダンサー6名、韓国人ダンサー1名が参加していた。

Messiaen が 第二次世界大戦中に捕虜としてドイツの Görlitz の収容所に収容されていた際に 作曲した曲を使い、 コスチュームも収容所の囚人服イメージしたもの。 その一方、囚人番号も連想させる肌に直接蛍光塗料で描いた背の数字使って エポックな年や日を表現したオープニングでは、 最初にコロンブス (Cristoforo Colombo) が新大陸に到達した1492を持ってくるなど、 むしろコロンビアの歴史を思わせる所もあった。 「残酷なまでに価値観を喪失したコロンビアのような国では、 人間の身体はもはや精神的な意味を失った。 我々は日々、拷問され切断され、殺害される身体を目にする。 そこには物質的な”使い捨て”の身体があるのみだ。」という Restrepo の言葉が フライヤにあるのだが、 第二次世界大戦中のドイツの収容所とコロンビアの2つの不条理な状況を重ね合わせ、 それをぎこちないシュールな動きで描いたようなダンスだった。

community dance ということでダンサーの動きには あまり期待はしていなかった。 実際、一般の人よりは訓練された動きだったとは思うが、 ヨーロッパの有名な contemporary dance のカンパニーと比べると見劣りした。 キャラクタを明確にしたダンサーでストーリーを展開させたり、 際立った動きのソロダンスを見せたりすることが無かったので、 捉え所無く感じられた。実際、前半はかなり退屈した。 最後のシーンを除いて、ゆったりめの囚人服風の衣裳と面を付けていたのだが、 それがダンサーの個性を隠してしまっていたようにも感じた。 収容所の死体のようにダンサー積み上げるシーンから、 面を取って手足を露わにしてペアで入れ替わりリフトを見せていくシーンになって、 ダンサーの個性が見えて面白くなるかなと思った所で終ってしまったのが残念だった。

コロンビアの folk/roots 的な要素を採り入れた音楽を使ったダンスを 期待していた所もあったので、 使われた音楽がいかにもな現代音楽だったのは残念だった。 力強く踊るというより細かい動きが多かった所も、 動きの表現力の有無がはっきり出てしまったように感じた。 このようなダンスよりも、folk/roots な音楽に合わせて踊る方が、 ある程度のレベルにまでであれば達し易いようにも思う。 El Colegio Del Cuerpo と似たようなカンパニーとして、1年余り前に観た カンボジア (Cambodia) の難民の子供たちを対象としたサーカス学校/カンパニー Phare Ponleu Selpak を思い出す (レビュー)。 それは、ストリートチルドレンの日常生活の様子を 子供ならではの明るさを生かした演出で描いた舞台だった。 このような演出の方が パフォーマーの技や動きのレベルにムラのある community dance に 向いているようにも思った。 その一方で、観ていて表現力の拙さとか見えてはしまうけれども、 あえてそういう作品に挑戦するというのも、一つの在り方のようにも思う。

ちなみに、El Colegio Del Cuerpo から話は逸れるが、 Phare Ponleu Selpak も、 野外民族博物館リトルワード で公演中だ (2008-09-13 〜 2008-11-24) [公演情報]。 舞台裏の様子を紹介する 日記 も読むことができる。