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Review: 『オン・ユア・ボディ —— 日本の新進作家展 vol.7』 (On Your Body: Contemporary Japanese Photography) @ 東京都写真美術館 (写真展); 石内 都 『ひろしま/ヨコスカ』 @ 目黒区美術館 (写真展)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2008/11/30
On Your Body: Contemporary Japanese Photography
東京都写真美術館 2F展示室
2008/10/18-2008/12/7 (月休;祝月開 翌火休), 10:00-18:00 (木金10:00-20:00).
朝海 陽子, 澤田 知子, 塩崎 由美子, 志賀 理江子, 高橋 ジュンコ, 横溝 静.

「身体」をテーマにしたグループ展だ。 女性写真家を6人揃え、企画した学芸員 (笠原 美智子) の言葉にも ジェンダーという言葉が見える。 確かにミスコンテストのような判りやすい題材を扱った作品 (澤田 知子) も あったけれども、全体として「ジェンダーと身体」のようなテーマを 強く意識させられる程では無かった。

最も印象に残ったのは、横溝 静 の「Forever (And Again)」 (2003)。 4人の70歳を超えた女性ピアニストが Chopin の waltz を演奏する 様子を捉えたビデオ作品だ。 2つの映像がギャラリーの隅を挟んだ壁2面に投影されている。 映像の一つは、ピアニストの演奏する様子をその手元を中心に捉えたもの。 カットは入るけれども、ダイナミックな演奏の動きや表情を演出するものではなく、 むしろ淡々と捉えている映像だ。 もう一つの映像は、固定カメラで捉えた窓の外の風景、もしくは、書棚や机など。 こちらはカットも入らず、 風に揺れる枝でやっとスチルではなくムービーであると気付く程度の静かな映像だ。 皺だらけの指が鍵盤の上を動く様子は、明確に衰えを感じさせるものではなく、 むしろその指が思わせる歳を裏切るほど滑らかだ。 老いによって思うように動かなくなった身体を強く意識させられることはない。 歳を感じさせる指と、歳の衰えが止まったかのような運指、 曲と共に進む一方の画面と、時間が止まったかのようなもう一方の画面、 と、淡々としていながら、 様々な時間の流れが2面の画面に捉えられた所が面白い作品だ。

高橋ジュンコの正三角形の3面にビデオ投影された 「Tokyo Mid I」 (2006-2007)、「Tokyo Mid II」 (2006-2008)、「Tokyo Mid III」 (2007-2008) は、 以前にI、IIを観ことがある [レビュー]。 今回上映されている映像では、 写っているモデルの女性にくずおれるような動きが加わっただけでなく、 固定カメラではなく手持ちカメラと思われる部分も目に付いた。 この新たに加えられた被写体とカメラの不安定さによって、 都市の構造を淡々と捉えて示すというより、 都市生活の危うさを暗示させるようになった印象を受けた。 その一方で、大手企業の事務職や受付の女性を捉えた写真に アクリルキューブを乗せて写真に撮った作品 「Untitled」 (2000-2008) にも象徴的だが、 女性事務職のジェンダーロールのような主題は、さらに後退したように感じた。

様々な都市で様々な映画を自宅のテレビで観る人々の様子を テレビからの視線で捉えた 朝海 陽子 「Sight」シリーズ は、 タイトルから知る観ている映画と、部屋や人々の様子のギャップが面白い作品だ。 幼い子供が食い入るように観ている様子や 画面とは関係なく親の間をゴロつく様子を捉えた写真は、 コンセプトという面では全体の流れから外れるように思う。 しかし、大人が見ている写真の合間に子供の写真がはさまることにより、 コンセプトから少々距離を置いて一息つくようなユーモアが感じられ、 そこが良かった。

併せて近くの美術館でやっていたこの展覧会についても簡単に。

目黒区美術館
2008/11/15-2009/01/11 (月休;11/24開;11/25休;12/28-1/5休), 10:00-18:00.

1970年代から現在に至る 石内 都 の活動を追った回顧展だ。 2年前の展覧会が 『Mother's』 (東京都写真美術館, 2006) では あまりちゃんと観ることができなかった 過去の作品をまとめて観ることができた、という点では、勉強になった展覧会だった。 1980年代までのアレブレボケの影響を強く感じる白黒写真はそれほど好みでは無いが、 時代を感じるものではある。 一方、身体に刻まれた「皺」や「傷」を造形的に捉えた1990年代の作品以降は むしろコンセプチャルな作風だ。 最新作とも言える『ひろしま』は、『Mother's』での作風を生かした作品で、 原爆犠牲者の遺品という対象とも合っている。 しかし、『ひろしま』が良いというより、 『Mother's』が一つのピークだったのかな、とも思ってしまった。