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Review: 『生活と芸術 — ア−ツ&クラフツ展』 (Arts & Crafts: From Morris To Mingei) @ 東京都美術館 (デザイン展)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2009/03/01
Arts & Crafts: From Morris To Mingei
東京都美術館
2009/01/24-2009/04/05 (月休), 09:00-17:00.

2005年にロンドン (London) の V&A (Victoria & Albert) Museum で 開催された 19世紀末から20世紀初頭にかけてイギリスで興った 近代デザイン運動 Arts and Crafts の展覧会 International Arts and Crafts の日本展だ。 少々まとまりに欠けるようにも感じたが、大がかりな再現展示や 国際的な影響に関する展示など、V&A らしい展示を楽しむことができた。

構成はイギリス (Britain)、ヨーロッパ (Europe)、日本 (Japan) の三部で、 V&A での展示ではあったアメリカ (America) の展示 (Frank Lloyd Wright 等) が無くなっていた。 第1部でイギリスの Arts and Crafts 運動を、 第2部では中東欧と北欧での影響を特に Secession (分離派) に焦点を当てて紹介していた。 第3部では日本での影響として民藝運動を展示していた。

最も印象に残ったのは、イギリスの Arts and Crafts ではなく、Secession を多く取り上げた第2部。 ウィーン (Wien) やミュンヘン (München) の Secession や ダルムシュタット (Darmstadt) の芸術村 (Künstlerkolonie) を中心にした展示だ。 第1部「イギリス」でのロマンチックな Art and Crafts に比べると、 大戦間期の Modernism のデザインに繋がるシンプルさが際だっていた。 また、去年末に『ドイツ・ポスター 1890-1933』 (宇都宮美術館) [レビュー] を観たばかりということもあり、 その前半のプロダクトデザイン版を観るような興味深さがあった。 Arts and Crafts の関連という形ではなく、 ドイツやオーストリアの Secession をメインに据えた企画を観てみたい。

イギリスの Arts and Crafts で最も印象に残ったのは、 Charles Rennie Mackintosh の椅子として有名な Hill House ではなく その high-back の原型ともいえる Argyle Chair が出ていたこと。 Art and Crafts の中でも、こういうシンプルなデザインの傾向のものが 少めだったように感じられたのは、少々残念だった。 第3部「日本」では、三国荘の再現展示に、 アサヒビール大山崎山荘美術館のコレクションがずらりと並び、かなり気合を感じた。 ただ、Arts and Crafts との間に Secession が入ってしまったせいか、 印象が薄くなってしまった。

『アールデコ展』や『イスラム美術展』でもそうだったのだが、 単にそのカテゴリ内のものだけでなく、 影響まで含めて展示を作るのはV&Aらしくて良いとは思う。 今回もそれなりに楽しんで観たが、期待していただけに物足りなく感じる所もあった。 網羅性という点で、フランスの Art Nouveau がすっかり抜け落ちていた。 Art and Crafts と Secession や民藝との関連付けは人脈に負う所が大きかったのだが、 イギリスのコーナーがロマンチックだっただけに、 Secession より Art Nouveau や Jugendstil の方が その影響として示すには良かったのではないか、と思う所もあった。