Akram Khan はロンドン (London, UK) 生まれバングラディシュ (Bangradish) 系の contemporary dance のダンサー/演出家だ。 in-i は、Khan が フランス (France) の映画女優 Juliette Binoche と共に制作した舞台作品だ。 コンテンポラリー・ダンスにしては判り易い作品だったが、 Binoche も予想以上の動きを見せ、それなりに楽しめた舞台だった。
女が映画館で見かけた男にアプローチをして同棲を始めるが、 すぐにすれ違いになる、という、ラブストーリー仕立ての ダンス・シアター的な作品だ。 抽象的な動きだけで舞台を構成するのではなく、 同棲生活のすれ違いの場面をはじめ、 少々オーバーアクションで構成したコミカルな寸劇のような場面もあった。 以前に観た Khan の作品 Zero Degrees では ballet 的な動きをほとんど用いていなかったが、今回もそう。 martial arts ほど激しくないが組み合い床を転がり回るような動きも多かった。 Ballroom dance (社交ダンス) の動きをよく使っていたのは、Binoche が踊れるからだろうか。 Binoche の得意とする動きを活用していたということもあると思うが、 予想以上に Binoche の動きが楽しめた。 一方、Khan については、 動きは Zero Degrees に比べて物足りなかったが、 演劇の男優っぽいこともできる人なんだな、と思ったりもした。
Zero Degrees でもあったが、 この作品でも独白的な台詞が用いられていた。 オープニングの女が男を映画館から追う場面など、 コンテンポラリーなダンスだけでなく演劇でも台詞などを用いず動きや演出だけで 表現しそうなところに、女の内面を説明するかのようなナレーション的な台詞を付けていた。 このような所は少々俗っぽく感じられたが、 コンテンポラリー・ダンス慣れしていない客層を意識して判り易く作ったのだろうか。 台詞を使ったシーンで良かったのは、 男女が仲違いした後の男女の独白の台詞、特に、Khan の台詞だ。 その内容は、イスラムの教えと無神論者の白人女性への恋心の間の葛藤、 「褐色の肌」と「白い肌」の問題、そして、 実際の恋心は一方的なもので相手にされているわけでないこと、など。 明らかに、ヨーロッパにおけるイスラム系移民を取り巻く問題を意識したものだ。 演じられていたうまくいかない恋愛が、 ヨーロッパにおけるイスラム系移民の微妙な立場のメタファーとなった瞬間だった。 けっこうポイントとなる独白だったのに、mosque が「お寺」と訳されていたりと、 字幕の日本語訳がイマイチだったのは残念。
舞台美術は Anish Kapoor。 舞台後方に彼ならではの顔料が使われた正方形の壁が立てられていた。 初演時の The Guardian 紙の写真を見て、 Kapoor らしい、と期待していた。 しかし、席が舞台から少々遠かったこともあるのか、 実際に観ると、普通の色の壁のように感じられた。これは少々残念だった。