解体中の建築や阪神大震災直後の神戸、九龍城の写真で知られる 宮本 隆司 の展覧会。 今回はそのような写真作品は無く、 草や虫、鳥を使った フォトグラム のシリーズと、 2000年以降手がけている巨大ピンホール・カメラの2作品。 巨大ピンホール作品は2004年の展覧会 [レビュー] で観たとき同様、それほどピンとこなかったけれども、 フォトグラムの作品は少々興味深かった。 草と虫のフォトグラムは、黒い画面を二等分するように縦に白い筋を描いているのだが、 草の連続線と虫の点線が対称的。 しかし、どちらも枯草や死骸を思わせる形でその痕跡を残しているものが不穏だ。 虫のフォトグラムは、蝉くらいの大きさのものだけではなく、 1〜2mm の蟻や羽虫も使っており、繊細さと白黒コントラストの強さが共存しているような感覚も、 面白く感じられた。
武蔵野美大の運営する gallery αM が年間テーマを決めて開催している展覧会シリーズ。 今年は『変成態 — リアルな現代の物質性』で、その第4弾が 東恩納 裕一 だ。 蛍光灯や花柄ビニールなどの工業的に作られる既製品を使った作品 [レビュー] で知られる作家だ。 今回の展覧会は、プラスチックの安い手鏡などを使ったキッチュさを感る作品と、 蛍光灯や黒いテープや木目プリントのロールシートを使ったハードな感触の作品の 2つが入り交じった展覧会だった。興味深かったのは、後者の方。 黒いテープで縦ストライプを壁一面に作った作品は、ほとんど Daniel Buren のようだが、 床と天井の所の処理の粗さや微妙な浮き具合がそれとは異なる感じを作っていた。 これは蛍光灯を使った作品における結束バンドやむき出しの安定器と同じだ。 単に既製品を使っているというより、仕掛けられた粗さのような部分が 彼の作品のポイントのようにも感じられた。 今回、そんな所が最も良く出ていると感じたのは、木目プリントのロールシートを壁に貼付けた作品。 壁とロールシートの関係が逆転して、 その浮き上がりめくれ上がって白く見える所がプリント木目の壁面を異化する裂け目のよう。 そこが面白かった。 そして、そんな壁面を背景に、蛍光灯を使った作品も映えていた。
この2つの展覧会を開催している2つのギャラリー Taro Nasu Gallery と gallery αM は 馬喰町のアガタ竹澤ビルに入っている。 ちなみに、Taro Nasu Gallery は2008年に六本木のコンプレックスビルから移転。 gallery αM は吉祥寺にあったが2002年にクローズ、 暫く特定のスペースを持たず、2009年にこの馬喰町のビルに再オープンしている。 このビルは1960年代の昭和な雰囲気の残る雑居ビルだが、 5階から地階まで、ギャラリーや雑貨ショップ、カフェなどが入り、 アート・コンプレックスのようになっている。 この旧日本橋区を中心とするエリアは、 2003年から Central East Tokyo として リノベーションのプロジェクトが行われてきている。 アガタ竹澤ビルもそんなビルの一つだ。 このエリアの噂は聞いていたけれども、ちょうどいいイベントも無く、行く事はなかった。 それなりにフォローしている作家の展覧会が2つ重なったこともあり、今回が初めて足を運んでみた。 ギャラリーしかなかった1990年代の食糧ビルのようなハードコアな雰囲気をなんとなく予想していたので、 予想していた以上に敷居の低いこじゃれた雰囲気にちょっとびっくり。 雑貨店やカフェも入っていると、雰囲気もかなり和らぐのかな、と。