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Review: 『生誕120年 野島康三 肖像の核心』 @ 松濤美術館 (写真展)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2009/11/15
松濤美術館
2009/09/29-11/15 (10/5,10/13,10/19,10/29,11/2,11/4,11/9休)

木村 伊兵衛、中山 岩太 と『光画』を創刊した写真家であり、 野々宮写真館も入った九段のモダンな野々宮アパートを建て (1936年)、 当時の芸術シーンを支えた 野島 康三 の回顧展だ。 彼の写真は東京都写真美術館などで観たことがあるが、これだけまとめて観たのは初めて。 風景や静物の写真もあるが、約半数が肖像写真。 そして肖像写真の方が良かった。特に1931年の「女の顔」シリーズ。

ちなみに、この展覧会へ足を運んだきっかけとしては、 今年の頭に東京都写真美術館で 中山 岩太 の展覧会を観た [レビュー] ということもあるが、 ちょうど、坪内 祐三 『靖国』 (新潮社. 1997) を再読していて、 第九章 「軍人会館と野々宮アパート」 に興味を惹かれたということもあった [読書メモ]。 そして、モダンだったといわれる 野々宮アパート や 『靖国』で描かれる九段の街の雰囲気を捉えた写真も観られるかもしれないと期待していた。 しかし、風景写真といっても庭などで撮った写真ばかり。 野々宮アパートどころか、東京の街の様子を撮った写真も無かった。 当時は既に 桑原 甲子雄 や 木村 伊兵衛 が街のスナップショットを撮り出していた頃だけに、 少々意外だった。 そういう作風ということだったのだろうか。

また、1920年代のゴム印画、ブロムオイル印画を経て1930年代のゼラチンシルバー印画へとの、 技術進歩にモダニズムを感じる所もあった。 1931年の「女の顔」シリーズの良さも、 ゼラチンシルバーに取り組み出した直後という勢いもあったように思う。 中山 岩太 展の時は様々な印画紙の違いなどが判るような技術的な展示も充実していただけに、 この展覧会でもこういったプリントの違いなどの面も展示でもっと取り上げて欲しかった。 ちなみに、この展覧会のゴム印画を制作した 大藤 健士 が、 制作時の考察や作業工程の解説をブログで公開している: 「野島康三のネガからガムプリント(ゴム印画)を作る」