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Review: 内藤 礼 『すべて動物は、世界の内にちょうど水の中に水があるように存在している』 (Naito Rei: Tout animal est dans le monde comme de l'eau à l'intérieur de l'eau.) @ 神奈川県立近代美術館 鎌倉 (美術展)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2009/12/13
内藤 礼 (Naito Rei)
『すべて動物は、世界の内にちょうど水の中に水があるように存在している』 (Tout animal est dans le monde comme de l'eau à l'intérieur de l'eau.)
神奈川県立近代美術館 鎌倉
2009/11/14-2010/01/24 (月休; 11/23,1/11開; 11/24,12/24,12/28-1/4,1/12休), 9:30-17:00.

内藤 礼 は1980年代後半から活動する現代美術作家だ。 その主題というよりも、 観客の感覚を研ぎ澄まさせ、視線を誘導し、その空間にあるささやかな光を気付かせるような、 非常に繊細で微かなものを使ったインスタレーションが面白い作家だ。 今回の展覧会でも繊細なインスタレーションという点は相変わらず。 しかし、宝探しに近いような微かさは後退。 作品の一部に気付きつらい仕掛けはあったかもしれないが、 2007年の 下山芸術の森 発電所美術館 での展示のような あからさまに見つけ辛いインスタレーションは無かった。 むしろ、内と外、明と暗といった関係の対比が印象的な展覧会だった。

印象に残るインスタレーションの一つは、最初の展示室の「地上はどんなところだったか」 (2009)。 展示用ガラスケースの床に数メートルおきに電飾用ムギ球を輪としたものが置かれ、 その暖かい光が照明を落とした展示室を薄明るく照らし出している。 ムギ球の下には方形のプリント布が敷かれ、 その上や近くには畳まれた布やリボンやテープなどが配されていた。 また、それと対称となるような位置にガラス瓶やガラス玉が置かれ、 頭上からは白い風船などが下げられていた。 通常はガラスケースの外から展示を観るのだが、 このインスタレーションではガラスケースの中に入っても観ることができる。 中に入って観ると、暗いギャラリーと明るいガラスケース内によりガラス面がハーフミラー状態となり、 写り込んだムギ球の輪のあかりが多重的に見え、 黒い影のような観客がその間を動くかのように見える。 また、外から観ていると、ガラスケース内で鑑賞している観客も作品の一部のよう。 そんな所から、作品と観客との関係を主題とした ハーフミラーを使った Dan Graham の作品を連想させられた。 その一方で、プリント布の柄やリボン、テープなどからは少々女性的なものを意識させられたりもした。 今まで、その繊細さは非性的で抽象的という印象を受けていたので、それは意外だった。 ちなみに、入ることのできるガラスケースは2つで、一度にガラスケースに入ることができるのは1名。 順番待ちとなる場合もある。

一方、天気がとても良かったこともあり、 屋外を使ったインスタレーションも楽しめた。 方形の中庭に白いリボンを2本を垂らした「精霊」 (2009/2006-) も、 薄く白い雲が流れる青空に映えていた。

しかし、屋外で最も良かったのは、池に面した一階テラスの手すりに水を満たした小瓶を置いた 作品 (無題, 2009)。 顔を近づけてビンの口を横から見ると、表面張力で盛り上がった水面が見える。 そして、その視線で見たとき、平家池の光のゆらめき、手すりが反射する光、 深い緑の影などが作りだす、ビンの向こうでピンボケした光の光景の美しさに気付かされた。 そこで、最初の展示室の「地上はどんなところだったか」の小瓶へ戻り、 その小瓶に目の高さをあわせて、瓶の中の表面張力へ凹んだ水面に視線を合わせ見直すと、 ムギ球で照らされたプリント布やリボンなどが作る空間が、 ぼんやり見える寝室か小部屋のように見えた。 高い視点で広くギャラリーを見るのとはまた違った世界が見えることに気付かされたし、 外の光に溢れた空間と中の暗い空間、盛り上がった水面と凹んだ水面、といったものが 対称を成しているように感じられるところも面白かった。 ちなみに、ギャラリー内の写真撮影は禁止だが、 屋外のインスタレーションは写真撮影可となっている。

観に行った12月12日は小春日和の暖かい晴れ。 このような明るい日差しに満ちた日に、屋外のインスタレーションを観られて良かった。 もし薄ら寒い曇の日だったら、ぱっとしなかったかもしれない。 また、インスタレーションの一貫として、建物の屋外照明の蛍光灯を外し暖色の照明に変え、 使っていないガラス張りの別棟の照明も合わせて調整していると聞く。 照明の付く閉館近い時間帯には、作品の違った表情が楽しめるのかもしれない。 観に行った日は夕方から別件の予定を入れていたため、 残念ながら照明下の作品は観ることはできなかったけれども。