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横浜トリエンナーレ 2008

Text Last Update: 2008/11/09 | 撮影 on 2008/11/07,08
横浜トリエンナーレ 2008: タイムクレヴァス
Yokohama Triennale 2008: Time Crevasse
2008/09/13-11/30.

美術展というより見本市に近い雰囲気だったパシフィコ横浜の2001年、 開催に混乱があり一年遅れの開催で手作り色濃かった山下埠頭での2005年に続き、 横浜トリエンナーレも第3回。 最近のアートフェアで主流になっているような平面や立体は少く、 コンセプチャルな映像作品やインスタレーション作品を中心に集められていた。 会場の一つ、新港ピアこそ新しい見本市会場のような空間だったが、 日本郵船海岸通倉庫 (Studio BankART NYK) や赤レンガ倉庫のように 既にギャラリーに転用されていた古い倉庫を会場にしていた。 三渓園を会場の一つとして、その庭園や茶室や古民家を使った作品もあった。 そういった所が、現代美術展らしい雰囲気を今までの中で最も感じさせたように思う。

「タイムクレヴァス (ときの裂け目)」ということで 時間感覚と身体性をテーマとしていたようだが、 パフォーマンスをライブで観ることがほとんど出来なかったこともあるのか、 作品を観ていてそれを意識させられることはあまり無かった。 観賞者が受動的に観るだけの作品がほとんどで、 身体や時間感覚を能動的に使わせるような作品が少かったからかもしれない。 むしろ、パフォーマンスの残渣のような緩いインスタレーション展示に 時間展開の終りや身体性の不在のようなつまらなさを感じることすらあった。

パフォーマンスを含む作品で印象に残ったのは Tino Sehgal, "Kiss"。 三渓園の旧民家 (旧矢箆原家住宅) の一階の広い畳の間で 普通にカジュアルな服装をしている若い男女が 抱擁しキスするかのように親密な感じで絡むパフォーマンスをしているという作品だ。 身体性というテーマの面でその動きが面白いというわけでもなく、 三渓園に観光に来て旧民家を見学に入って来た一般客が それを見てぎょっとするそのリアクションを見るのが面白かった。

身体性や時間感覚という観点で最も良いと思った作品は、新港ピア会場の Cerith Wyn Evans and Throbbing Gristle, "A=p=p=a=r=i=t=i=o=n"、 裏に高指向性スピーカー "Audio Spotlight" を仕込んだ様々な大きさの丸い鏡16枚をモビールとしてぶら下げた作品だ [写真]。 その鏡/スピーカーの間を歩きながら、鏡に写る自分や他の観客の姿を眺めつつ、 断片的に変化するサウンドスケープに耳を傾ける作品だ。 観客の歩みや鏡に写る姿を意識させるという身体性の扱い、 自分の歩みとモービルの動きで移りゆく不規則な時間進行、 と、テーマにも合った良い作品だった。 見た目をシンプルでミニマルに仕上げているのも良い。 Mario Garcia Torres, "Secret Between Walls" でも使われていたが、 "Audio Spotlight" の使用は、 サウンドインスタレーションでの流行になっているのだろうか。

客を動かして観賞させる作品といえば、横浜赤レンガ倉庫1号館の 長い通路を使った Miranda July, "The Hallway" [写真]。 細い通路に視界を遮るかようにテキストが書かれたプレートが掲げられ、 それを避けつつ読みながら通路を歩き進む作品だ。 そのテキストはシリアスではなく少々ユーモラスで人をくったような所もあるが、 途中で逃げ場もなくそんなものを歩き進みながら読まされてしまう所も 含めて可笑しい作品だった。

しかし、最も楽しんだ作品は、 三渓園の小谷を霧で満たした 中谷 芙二子 「雨水物語 — 懸崖の滝 Fogfalls #47670」 [写真] や 横浜ランドマークタワー ドックヤードガーデン を シャボン玉で沸き立たせた 大巻 伸嗣 「Memorial Rebirth」 [写真]。 いずれも、固定的な構築物や光ではなく流れる不定型物 (霧やシャボン玉) で 風景を変容させていた作品った。

ちなみに、晴れた11月7日に三渓園と大さん橋客船ターミナル (H BOX) を、 曇時々雨の11月8日に残りを観た。 ただし、ランドマークプラザの展示は9月13日に観ている。

今年の横浜トリエンナーレが今までより良い点として、もう一つ、 応援企画という off/fringe 的な位置付けのイベントが多く開催されていることがある。 自分が観たものだけでも、 『The Flying Dutchman Project 2008』、 『BankART Life II』、 『黄金町バザール』『AOBA+ART』。 メインへの対抗というより協調という点が物足りなくも感じたが、 国際美術展は off/fringe が盛り上がってこそ、とも思う。

以下に写真に撮った作品のうち主なものを、個別にコメント。

Michael Elmgreen & Inger Dragset, "Catch Me Should I Fall"
@ 横浜ランドマークタワー ランドマークプラサ

Michael Elmgreen & Inger Dragset photo 1 ノルウェーの2人組ユニット。 この飛び込み台の高さは、 在日中国雑技団の椅子を積み上げての倒立 とほぼ同じ高さ。そう考えると、この作品も意外と低いのか、雑技団の技が高過ぎるのか……。

中谷 芙二子 (Fujiko Nakaya) 「雨水物語 — 懸崖の滝 Fogfalls #47670」
@ 三渓園

中谷 芙二子 photo 1 1970年大阪万博での霧の彫刻で知られる 中谷 芙二子 の 三渓園の奥まった所にある滝に始まる小谷を霧で埋めるインスタレーション。 市川 創太、藤本 隆行 との共同作品。

写真は、霧に霞む旧東慶寺仏殿。 この仏殿の中に Jorge Macchi & Edgerdo Rudnitzky, "Twilight" が展示されていたが、 作品の滑車が錆びついてしまい調整中で観ることができなかった。 錆びた原因がこの霧なのかどうかは不明。

中谷 芙二子 photo 2 霧だけではなくライティングもされていた。 晴れた昼だったので効果がほとんど感じられなかったが、 日が暮れると雰囲気が出るかもしれない。

中谷 芙二子 photo 3 竹林の向こうに霧を発生するノズルが仕込んであり、そこから霧が沸き上がってくる。

関連レビュー: 『E.A.T. ―― 芸術と技術の実験』 (E.A.T. --- The Story of Experiments in Art and Technology) @ NTT ICC (美術展) (2003-05-25)。

内藤 礼 (Naito Rei) 「無題 (母型)」
@ 三渓園 横笛庵

内藤 礼 photo 1 薄暗い茶室の中、差し込む陽射しに白く燐きながらゆらぐ細い糸。 糸がゆらぐように小さなヒーターが畳の上に置かれていた。 去年に観た展覧会と同じタイトルで、 糸や水滴の間を歩き回るような作品を期待したのだが、 覗き観るようなこぢんまりした作品だった。

関連レビュー: 内藤 礼 『母型』 (Rei Naito, Matrix) @ 入善町 下山芸術の森 発電所美術館 (美術展) (2007-12-15)。

H BOX
@ 大さん橋国際客船ターミナル

H BOX photo 1 特別展示の移動式上映施設 presented by Hermes。 上映していた映像作品も Hermes のスポンサーで制作されたものでした。 このようなスタイルで上映する必然性を感じる作品ではなかったのが残念。

Cho Minsuk & Joseph Grima with Storefront Team, "Ring Dome"
@ 運河パーク

Ring Dome photo 1 桜木町駅からメイン会場へ向かう途中、 運河パークのインフォメーションセンターの脇に立つドーム。 パフォーマンスのステージとしても使われているが、 タイミングが合わず、それは見ていない。

Tony Conrad, "Brunelleschi"
@ 新港ピア

Tony Conrad photo 1 アメリカの作家/ミュージシャン Tony Conrad による 透視画で知られるイタリア・ルネッサンスの画家 Brunelleschi を 主題としたコンセプチャルなインスタレーション。 "Flicker" のような映像や音楽的な作品を予想していたので、少々意外。 9月14日の Jim O'Rourke とのパフォーマンスを見たら、 まだ違う印象になったのかもしれないが。

関連レビュー: Tony Conrad (live, lectures, films, videos) @ Setagaya Art Museum, Tokyo (1998-08-14)。

Peter Fischli & David Weiss, "A Rat And A Bear"
@ 新港ピア

Fischli & Weiss photo 1 ビデオ作品 "Der Lauf der Dinge" (1987) で有名なスイスの2人組 Fischli & Weiss。 お馴染の現代美術のゆるキャラ、ネズミとクマ。

Cerith Wyn Evans and Throbbing Gristle, "A=p=p=a=r=i=t=i=o=n"
@ 新港ピア

Cerith Wyn Evans photo 1 イギリスの作家 Evans と post-punk / industrial の文脈で知られる Throbbing Gristle の作品。 鏡/Audio Spotlight のモビール。 鏡に写る自分や他の観客の姿を眺めつつこの間を歩きながら耳を傾ける 断片的に変化するサウンドスケープ。

Michelangelo Pistoletto, "Seventeen Less One"
@ 新港ピア

Michelangelo Pistoletto photo 1 1960年代末から Arte Povera の文脈で活動するイタリアの作家 Pistoletto。 額縁入りの鏡で action painting。

Miranda July, "The Hallway"
@ 横浜赤レンガ倉庫1号館

Miranda July photo 1 アメリカの作家 July による、 人をくったようなユーモアのテキストを読み進む小径。

小杉 武久 (Kosugi Takehisa), "Resonance"
@ 日本郵船海岸通倉庫

小杉 武久 photo 1 1960年代から活動する作家/ミュージシャン 小杉 武久 のインスタレーション。 音と光を共振させた作品。 発振したりせずに安定していたので、少々変化に乏しかった。

関連レビュー: 『恋スル身体』@ 宇都宮美術館 (美術展) (1999-08-20)、 Merce Cunningham Dance Company, Windows, Pond Way, Scenario @ 新宿文化センター (ダンス) (1998-10-24)。

Marina Abramovic, "Soul Operation Table I, II, III"
@ 日本郵船海岸通倉庫

Marina Abramovic photo 1 旧ユーゴスラヴィア出身でパフォーマンスを得意とする美術作家 Marina Abramovic。 本来ならこの手術台の上で魂の手術を受ける、ということをするのだろうが……。

関連レビュー: Marina Abramovic & Babette Mangolte, Seven Easy Pieces (映像作品) (2007-05-05)、 Marina Abramovic, Cleaning The House @ 世田谷美術館 (パフォーマンス) (1997-02-09)

大巻 伸嗣 (Ohmaki Shinji) "Memorial Rebirth"
@ 横浜ランドマークタワー ドックヤードガーデン

大巻 伸嗣 photo 1 50台並べられたシャボン玉自動発生装置から大量にシャボン玉が噴出。 摺鉢状のドックヤードガーデンの底は気流が安定していて、 シャボン玉も一気に流れ去らずに、溜り具合もいい感じ。

大巻 伸嗣 photo 2 弱い風に乗って、若干傾斜した壁に沿って、 シャボン玉は上に上がっていった。

大巻 伸嗣 photo 3 ランドマークプラザに買物に来ていたと思われる家族連れが 観に集まっていました。 一番楽しんでいたのは子供たち。吹き出るシャボン玉に大はしゃぎ。

関連レビュー: 大巻 伸嗣 『ECHOES -INFINITY-』 @ SHISEIDO GALLERY (美術展); 大巻 伸嗣 『Crystallization』 @ 東京画廊 (美術展) (2005-08-27)。

おまけ:水上バス
@ 大岡川

公式サイト等では告知されていませんが、 横浜トリエンナーレの会期中の土日祝に水上バスが運航されています。 トリエンナーレ会場の赤レンガ倉庫前と日本郵船海岸通倉庫前を結ぶものと、 日本郵船海岸通倉庫前と黄金町バザール会場の大岡川桜桟橋を結ぶものの 2ルートで運行中です。 2トリエンナーレ間は無料、桜桟橋行きは500円。要予約です。

11月8日に日本郵船海岸通倉庫前発桜桟橋行最終便 (1630発) に乗ることができました。 乗客5名操縦士1名でいっぱいの小型モーターボードでした。 大岡川を遡りいくつもの橋をくぐる、スリリングなルートでした。

日暮れの中の灯りも雰囲気がありましたが、 暗いうえにボートが速く、写真には難しかった……。 綺麗に撮れませんでしたが、船上からの眺めはそう見られるものでもないので、 写真レポート。

大岡川 photo 1 乗船直前に忘れ物に気付くなどで余裕が無く、乗ったボートの写真はありません……。 日本郵船海岸通倉庫 (BankART Studio NYK) 前を出て、 ランドマークタワーの見える方 (北西) へ。 最初にくぐるのは万国橋、馬車道から新港を結ぶ橋です。

大岡川 photo 2 万国橋をくぐると、行く手に汽車道とランドマークタワーが迫ります。 汽車道の中央の鉄橋をくぐって、一旦、みなとみらいの側 (北側) へ。

大岡川 photo 3 日本丸 (マリタイムムージアム) をかすめて、 再び汽車道の桜木町寄りの鉄橋をくぐります。 汽車道の南側を素直に行かずに、鉄橋を2度くぐったのは、サービスでしょうか。

大岡川 photo 4 みなとみらい大通りと本町通りを結ぶ橋、北仲橋。 大岡川下流域で最も新しい橋らしく、シルエットが薄っぺらくてミニマル。

大岡川 photo 5 北仲橋をくぐると、弁天橋と馬車道界隈の繁華街の都会的な風景に。

大岡川 photo 6 桜木町駅から馬車道方面に抜ける歩行者専用の橋の下あたりから、 大江橋と根岸線の鉄橋を望む。根岸線の鉄橋にちょうど北行の電車が走ってました。

大岡川 photo 7 国道15号線、桜川橋の下。 ここで、この水上バスルートのほぼ中間地点。

大岡川 photo 8 野毛本町通りと吉田町商店街を結ぶ都橋。 野毛大道芸の際などに何度となく渡っている橋ですが、 川面から見る機会があるとは。

大岡川 photo 9 大岡川の都橋と宮川橋の間の北岸 (野毛側) の 都橋商店街 を川面から。 屋台街が元になった長屋風の商店街です。

大岡川 photo 10 長者橋と旭橋の間。 張り出した桜並木で両岸が覆われています。

大岡川 photo 11 旭橋の下に見える旗のようなものは、 『黄金町バザール』 出展作家 本間 純 の作品。 旭橋をくぐると、すぐ、終点の桜桟橋です。 日本郵船海岸通倉庫前から約10分、あっという間の船旅でした。

(この項目2008/11/14追記)