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Review: 田口 行弘 『複合回路 第一回 接触領域 (キュレーター 高橋 瑞木)』 @ gallery αM (美術展)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2010/05/09
『複合回路 第一回 接触領域 (キュレーター 高橋 瑞木)』
gallery αM
2010/04/17-05/26 (日月祝休), 11:00-19:00.

武蔵野美大の運営する gallery αM の年間展覧会シリーズの2010年度のテーマは『複合回路』。 その第一回の展覧会だ。初めて観る作家で、その作風等の予備知識もほとんど無かったのだが、 オブジェとそれが作り出すシルエットのからなるインスタレーション、 さらに、そのアニメーションと、様々なものが複合したとても面白い展示だった。

ギャラリーに入ると、丸椅子や脚立、バケツ、箒、ギター、ぬいぐるみなどの家具や日用品が いかにも雑然と暗い空間に並べられていた。 そういう緩いインスタレーションなのかと思いながら歩いていると、 ギャラリーの狭い側の隅に草花の影が大きく立ち上がっているのが目に入り、 壁に映っているいる影が計算されているものであることに気付いた。 ギャラリーの入口に立つと、物の影の合間から自身の影が床から大きく立ち上がるようになっている。 雑然としているようで、実は影の出来方を綿密に計算してのものなのだ。 なるほど、影を使った壁へのドローイングだ。

壁に映った影を見ながら広い方へ移動すると、作家と思われる人が写真を撮っている。 撮影の邪魔にならないように壁際を移動していたとき、 足下に置かれたノートPCに動画が表示されていることに気付いた。 屈んで覗き見ると、gallery αM の空間を映した映像だということに気付かされた。 それは、この展覧会のインスタレーションの様子をコマ撮りアニメーションにしたものだった。 それも、影が動く様子がシャドウ・アニメーションとなっているだけでなく、 ギャラリーに置かれた物も列を成してギャラリー内を歩き回ったりと、 影を作る側もオブジェクト・アニメーションとなっているのだ。 ギャラリー内の物は、影をその動きを含めて計算しているだけではなく、 オブジェクト・アニメーションとしての動きも計算して配置されていることに気付かされた。

そして、単に展示の記録のために写真を撮っているのかと思っていたのは、 実は、このアニメーションの新たな一コマを撮影していたという。 展覧会の会期中、ギャラリー内の物やその影は少しずつ移動し、 アニメーションは少しずつ長くなっていく。 さらに、会期中5月の毎土曜日にはギャラリーを使ったイベントが行われるのだが、 そのイベントの様子もアニメーションに取り込まれていく。 実際、既に、5月1日のワークショップ「みんなで影絵をつくろう!」の様子がアニメーションの中に取り込まれていた。 ワークショップのためにギャラリーに縦長の白いスクリーンが下げられていく様子も、 ワークショップ参加者の作るシルエットも、アニメーションとなって動いていた。

ギャラリーを訪れる短い時間だけ見ても、 家具や日用品を一見雑然と配置した空間インスタレーションと、 それらが作り出す影を使った壁へのドローイング、という二面がある。 しかし、それだけではない。 イベントを含めた会期中のひとコマひとコマの積み重ねがアニメーションとなっていく。 そして、ギャラリー内の物や影の配置はアニメーションを目的としたひとコマでもあり、 アニメーションは物や影を配置したインスタレーションとしての展覧会の記録でもある。 そんな、様々に組み合わされた二面性の表裏が見ているうちにどんどん返されていくところが、 この展覧会を非常に面白く感じた所だった。

この作品の性質上、物や影の配置は会期中に少しずつ変わっていく。 それがどう変わって行くのか、 そして、5月中に予定されている映画上映会やライブ等のイベントが どのようにアニメーションへ取り込まれていくのか、そんなことも気になる。 会期中にまた観に行きたくなる、そんな展覧会だ。

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関連レビュー:

15日土曜の晩、馬喰町の gallery αM へ。先週末に観た 田口 行弘 展が 良かったので、イベントも観ようと。 この晩は 馬喰町バンド のライブ。 どのようなバンドかほとんど予備知識は無かったけれども、 このインスタレーションの中でどうライブをするのか、 そしてそれをどうアニメーションへ取り込むのか、その興味で観に行った。 17時半から途中1回休憩を入れアンコール有りで約2時間、影で見せるライブが楽しめた。

17時半前にギャラリーに着くと、リハーサルらしき演奏が響き、 ギャラリー奥に演奏する人の姿の影が大きく映し出されていた。 ばっと見、壁にプロジェクタで影を投影しているのかと思った。 しかし、すぐに、梁と柱の位置に合わせて白い帯状の障子紙を並べて垂らして仕切りを作り、 その後ろにミュージシャンが演奏していることに気付いた。 そしてその後ろにある光源が障子紙に影を作り出していた。

そして、ライブもミュージシャンが障子紙の向こうに隠れたまま行われた。 作家の 田口 氏も障子紙のミュージシャン側に入り、 演奏に合わせて光源を動かし点滅させ、影に変化を作り出していた。 一人の影を大きく映し出したり、guitar を爪弾く指先の影を拡大して見せたりするだけでない。 2つの光源を用い、ズレた影でリズムを作りだしたり、 バラを挿したビンの影を演奏者の影にかぶせたり、 異なる影をオーバーラップさせてシュールな効果を作り出したりもした。 ほとんどMC無しで演奏される軽快な音楽も、無声影絵映画のサウンドトラックのよう。 音楽も映像もライブで作られる無声映画の上映会のようで、それが、とても面白かった。 ちなみに、結局失敗したが、このライブは Ustream 配信が試みられていた。 僅かに残ったライブの様子の断片を Ustream で観ることができる [Ustream]。

演奏した馬喰町バンドは guitar、doublebass、percussion の3人によるアコースティックな編成。 その演奏はちょっとノスタルジックな旋律のリズミカルなもので、 choro を思わせる所もあるインストゥルメンタルだ。 確かに、自分の音楽の好みからすると少々スムース過ぎに感じる。 しかし、デジタルでの画像処理ではなく暖かい色の光りで影を作って描いていく作品に、 アコースティックな音色の優しい音楽は合っていた。 特に guitar は弦を爪弾く所など影で映える楽器で、作品に合っていたとも思う。

また違う編成のバンドだったら、例えば、 編成の中に管楽器もいると影と音色のバラエティが広がりそう、とか、 jazz 的なソロ回しのような展開があると影の動かし方も変わりそう、とも思う。 ダンスやパントマイムと生演奏の共演をこのスタイルでやるのも面白そうだ。 ミュージシャン側から観客が見えないのがやり辛い、という話をミュージシャンの一人がしていたが、 時々観客側からも光を当て障子に観客の影も投影するのも面白いかもしれない。 まだまだいろいろ展開できそうに思う。そんな今後の展開も期待したくなるようなライブだった。 このような形のライブがあったらまた観てみたい。

もちろん、ライブの合間に展示も観た。 アニメーションを観ると、イベントの無い平日はかなり物がギャラリー内に展開されているのだが、 土曜はライブに合わせてギャラリーが整理されていた感もあって、少々残念だった。 また、先週見落としていたものもけっこうあったことに気付かされた。 ギャラリーの狭い側に立ち上がっている草木の影は、ワインボトルに挿したユリのもので、 それが枯れて行く様子も写真で記録されていっていることに気付いた。 また、ギャラリーを洞窟に見立てており、その洞窟の地図がその時々に手書きで作成されてもいた。 そして、水を通して投影されているビデオがあるのだが、 それはこの会場で作られているアニメーションだけでなく、 実際に洞窟に行ったときの様子も含まれているということにも気付いた。 このような洞窟のモチーフというのも、物の配置の鍵になっているのかもしれない。

(2010/05/16 追記)

22日土曜の晩は、先週末に続いて、馬喰町の gallery αM へ。 再び、田口 行弘 展を覗いてきました。 南風食堂 による食事会が (クロージング・パーティ) どういう形で行われるのか、ちょっと気になったので。 ライブの時にスクリーンに使った障子紙でテントのようなものをギャラリー内に作り、 そこで食事をするという形になっていたようでした。 その障子紙の屋根の内側に風船がいくつか封じ込められており、その影が屋根に写ってました。 しかし、料理や食器、もしくは食べる人の影は無し。 パフォーマンス、パプニングというより、普通のオープニング/クロージング・パーティに近いもの。 ま、先週からアニメーションがさらにどう進展したのか、 ライブをどうアニメーションに取り込んだのか、その映像を観ることができたのが収穫でしょうか。 関係者でもなんでもない自分には場違いな所へ来てしまった……、 という感じだったので、観るものだけみて早々に退散しました……。

ところで、この展覧会の作家の 田口 行弘 は YouTube に アカウント を持っていて、そこで様々な動画を公開しています。 今回の展覧会に関する動画もさっそく上げられていて、展示の様子の2本 [1, 2] の他、 5月15日の 馬喰町バンド のライブから 1曲分の動画があります。 もちろん、今回の展覧会に関するもの以外にも多くの動画が載っています。全てを観たわけではないですが、 “NEST No.2 (2009) が、その音楽的な音やリズム感はもちろん、時折見せる可愛らしい仕掛けも、楽しいです。

(2010/05/23 追記)