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Review: Stephen Bury (ed.): Breaking the Rules: The Printed Face of the European Avant Garde 1900-1937 (美術書)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2010/08/12
(British Library, ISBN978-0-7123-0980-4, 2007)
pp.176, W:19cm, H:25cm, paperback.

キュビズム (Cubism)、未来派 (Futurism) から構成主義 (Constructivism) やダダ (Dada) まで、 20世紀初頭ヨーロッパの Avant Garde 芸術運動を印刷物の切り口から捉えた展覧会の図録だ。 ちなみに、この展覧会はイギリス British Library (大英図書館) で 2007/11/09 から 2008/03/30 にかけて開催された。

印刷物、もしくは、印刷物を通した表現として、この本は、 マニフェスト、アーティストブック、リトルマガジン、フォトブックを挙げている。 そして、全体を概論するイントロダクションに続いて、これら4つのそれぞれについて論じている。 イントロダクションでの、「Avant-Garde の雑誌や年鑑の重要な役割の一つは、 国際的な観客が入手しやすいように美術作品を複製することであった。 当時はまだ「生きた美術」もしくは近代美術の美術館やギャラリーは無かった。 MoMA, NY が開館したのは1929年だった。」という指摘は、この企画の意義を示すものだろう。

各論の中で最も興味を惹いたのは、フォトブック。 Brassaï: Paris de nuit (1933) を承けて、 コペンハーゲンとロンドンで Hermann Larsen: København vet nat (1935) と Bill Brandt: A Night in London (1938) という写真集が出版されていた、ということ。 それも、Brandt は Brassaï と知り合いで、 A Night in London は Brassaï の出版者 Charles Peignot が共同出版者となっていたという。 このような影響や人脈の広がりもこの時代の Avant-Garde らしい。

イントロダクション、各論に続いて、ヨーロッパ各地の (例外としてニュー・ヨークが入っているが) Avant-Garde 芸術運動の印刷物が都市・地域ごとに2、3ページを使って紹介されている。 取り上げられているのは以下の通り。

バルト諸国 [Baltic States], バルセロナ [Barcelona], ベオグラード [Belgrade], ベルリン [Berlin], ブリュッセル [Brussels], ブカレスト [Bucharest], ブダペスト [Budapest], コペンハーゲン [Copenhagen], クラクフ [Cracow], フィレンツェ [Florence], ハリコフ [Kharkiv], キエフ [Kyiv], ライデン [Leiden], リスボン [Lisbon], マドリッド [Madrid], ミラノ [Milan], ミュンヘン [Munich], ニュー・ヨーク [New York], パリ [Paris], プラハ [Prague], ローマ [Rome], サンクト・ペテルブルグとモスクワ [St Petersburg and Moscow], トビリシ [Tbilisi], ウィーン [Vienna], ヴィテブスク [Vitebsk], ワルシャワ [Warsaw], ワイマール [Weimer], チューリヒ [Zurich]

Timothy O. Benson (ed.): Central European Avant-Gardes: Exchange and Transformation, 1910-1930 (The MIT Press, ISBN0-262-02522-1, 2002, book) [レビュー] でもそうだったが、20世紀初頭のヨーロッパの Avant-Garde は、 国ごというより都市ごとにシーンを分けて考えるというのが一般的だ。

この本を読んでいて、いわゆるイタリア未来派と知られているものは主にミラノのシーンのもので、 フィレンツェやローマは少々違ったのだなと気付かされた。 ロシア・アヴァンギャルドは大きく「サンクト・ペテルブルグとモスクワ」とまとめられているが、 それでも、ヴィテブスクが別立てになっている。 また、ウクライナのキエフとハリコフのシーンもそれぞれ取り上げられている。 グルジアはトビリシのシーンも紹介されており、 H2SO4 という雑誌の グルジア文字を使い構成主義的なグラフィックデザインが目を引いた。

この本と似たようなテーマの本としては、レターヘッド等の郵便物に着目した Ellen Lupton and Elaine Lustig Cohen: Letters from the Avant-Garde (Princeton Architectural Press, ISBN 1-56898-052-3, 1996, Book) [レビュー] がある。 印刷物のグラフィック・デザインを通して 20世紀初頭ヨーロッパの Avant-Garde を横断的に取り上げ、 そのネットワークを浮かびあがらせているという共通点がある。

ちなみに、この本の対象にしている期間の始まりは1900年から1937年までと、 20世紀初頭の Avant-Garde を扱った本にしては長めに取られている。 1910年前後 (Marinetti の最初の Futurist manifesto が1909年) から 1930年代前半 (社会主義リアリズムがソヴィエトの公式の表現方針となったのが1932年、 ナチスがドイツで政権を取ったのが1933年) を時代区分とすることが多いからだ。 この本の始まりの1900年は、何かメルクマールとなる出来事を想定しているというより、 世紀の変わり目という程度のよう。 この本で取り上げられている最も早い時期のものは、やはり1910年度前後だ。 一方、終わりの1937年は、ナチスが頽廃芸術展 (Entartete Kunst exhibition) が 開催された年から採られている。 ソヴィエトの大粛清が最盛期 (1937-8年) を迎えた時期でもあり、 Avant-Garde への弾圧が明確になった時期と言ってもいいのかもしれない。