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Review: 『バウハウス・テイスト バウハウス・キッチン』 (Bauhaus Taste - Bauhaus Kitchen) @ パナソニック電工 汐留ミュージアム (デザイン展)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2010/10/13
パナソニック電工 汐留ミュージアム
2010/08/18-12/12 (月休;9/20,10/11開), 10:00-18:00.

戦間期ドイツ・ワイマール共和国時代の造形芸術学校 Bauhaus が キッチン・デザイン等を通して提示したライフスタイルに焦点を当てた展覧会だ。 Stiftung Bauhaus Dessau (バウハウス・デッサウ財団) のコレクションに基づくもので、 写真等の資料や食器類等のデザイン・プロダクトに 2年前の『バウハウス・デッサウ』展 (東京藝術大学大学美術館, 2008) [レビュー] で観たものも少なく無かったけれども、 戦間期モダンの「新しい女性」像や家事合理化試みと Bauhaus の関係に焦点を当てた所が とても興味深い展覧会だった。 第一次フェミニズムの中でも最もスタイリッシュでカッコいい成果を概覧できる展覧会と言えるかもしれない。

この展覧会の見所の一つは Bauhaus Meisterhaus (教員宿舎) の一つ Oskar Schlemmer 邸 (1926) のキッチンの1/1再現だろう(写真左)。 同じ1926年に作られた近代的なキッチンの先駆として名高い Die Frankfurter Küche の1/1再現を 『建築の20世紀 —— 終わりから始まりへ』展 (東京都現代美術館, 1998) [レビュー] で観たことがあるが、 労働者向け集合住宅のために設計されたそれに比べると、 パーツでは共通していると感じるが、Schlemmer 邸のキッチンは広々。 調理場とシンクを分離しているのは衛生面を考慮してと思うが、それも空間的に贅沢だ。 さらに、当時に製作された Bauhaus Meisterhaus を舞台に部屋・家具等の使い方をデモンストレーションしたサイレント映画 (Paul Wolff, u.a. Neues Wohnen, 1926) が、 会場でビデオ上映されていた。 この映画では家事労働は女中が行っており、それを想定した作りと言った方が良いかもしれない。 そんなところに、労働者階級と有産階級の差を感じてしまった。

簡単ながら手続きが必要だが、このキッチン1/1再現のみ写真撮影可となっていた。 この展覧会を観に行くときは、カメラを持って行くことをお薦めしたい。

19世紀末から20世紀初頭にかけての家事改良の動きやその中での Bauhaus の位置付けについては、 柏木 博 『家事の政治学』 (青土社, 1995/2000) などを通してある程度予備知識があったこともあり、 展示はそれほど新鮮という程では無かったけれども、 当時のモダンなキッチンや住宅のイメージを集めた展示は興味深く観られた。

しかし、最も興味深く観られたのは「バウハウスと新しい女性」と題された展示。 これが約1/3を占めており予想以上に充実していて、新たに知ったことも多かった。 例えば、László Moholy-Nagy や Herbert Bayer がグラフィックデザインに関わった 1929-43年に発行された Die Neue Linie という ライフスタイル誌があったことを知った。 また、学生のほとんどを女性が占めた織物工房、 金属工房代表主任にまでなった Mariannne Brandt にも光が当てられていた。 Bauhaus の女子学生の写真がスライド上映されていたのだが、そんな中で気になったのは Gertrud Arndt の写真。 スナップ写真とは違う、ちょっと芝居がかった表情、メイク、服装で撮られたセルフポートレートが中心で、それが面白かった。 今までノーチェックだっただけに、彼女の写真をもっとちゃんとした形で観てみたい。

ちなみに、現在、MoMA, NY でも Counter Space: Design and the Modern Kitchen というキッチン・デザインの展覧会が開催中 (2010/09/15-2011/03/14) です。 ウェブサイトを見ると、こちらの展覧会では、Die Frankfurter Küche 等の20世紀初頭のモダンなキッチンと それを受けて広がった冷戦期ミッドセンチュリー・モダンなキッチンのデザインを広く取り上げています。 映画における台所のイメージを取り上げていて、家事合理化や女性の家事からの解放という面というより、 20世紀のライフスタイル変遷の一つのバロメーターとしてのキッチン、という切り口のようです。