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Review: 『ゴダール・ソシアリズム』 Jean-Luc Godard (dir.): Film Socialisme (映画)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2011/01/08
2010 / Suisse/France / 1h42m / colour / digital(16:9).
Réalisation et Scénario: Jean-Luc Godard.

『アワーミュージック』 (Notre Musique, 2004) 以来 6年ぶりとなる Godard の新作だ。 確かに若干退屈に感じたときもあったけれども、Godard 流の地中海歴史紀行を楽しむことができた。

タイトルに社会主義 (socialisme) とあるが、内容的にはそれと直接の関係は無し。 スペイン内戦時の1936年にスペイン共和政府からソビエト連邦に武器代金として金貨を海路で送った という逸話が、映画の一つの背景となっている。 三楽章構成で、第一楽章の “Des choses comme ça” 「こんな事ども」は 地中海を行く豪華客船が舞台。 ここで、金貨のエピソードが仄めかされ、地中海 (含む黒海) 沿岸の6つの場所、 エジプト (Egypte)、パレスチナ (Palestine)、オデッサ (Odessa)、ギリシャ (Hellas)、ナポリ (Napoli)、バルセロナ (Bacelona) が示される。 第二楽章 “Notre Eurpoa” 「どこへ行くヨーロッパ」 では、 突然話が変わって、南仏コートダジュール近くの田舎町の一家の話となる。 第三楽章 “Nos humanités ” 「われら人類」では、 再び地中海を行く豪華客船に話が戻るのだが、 6つの場所を舞台としたドキュメンタリー映像や劇映画映像のラッシュで その地の歴史やイメージを描いて行く。

第一楽章の最初のうちは何の話をしているのかなかなか掴めなかったし、 話が変わってしまった第二楽章は若干退屈したのも確かだけれども、 豪華客船やそこからの海の眺め、強い日差しの下のコントラスト強い南仏の田舎町の風景、 6つの場所にまつわる様々な映像のコラージュを眺めているうちに、 Godard らしく、明確に物語ることを避けた地中海歴史紀行の映画を観ているような気分になった。 第一章での豪華客船上で乗客が携帯電話のカメラやデジタルカメラで撮影する様子を頻繁に捉えたり、 第二章でのTV取材クルーなど、撮影する人に対するこだわりや、 セリフやコラージュされる映像での戦争や内戦へのこだわりも、 そして、ふんだんにちりばめられた引用も、確かに Godard らしいとは思ったけれど。

あと、悪い画質・音質の効果的な利用も印象に残った。 まるで携帯電話のカメラや民生用のビデオカメラで撮っているかのような粗い画像や、 あえて強調したようなマイクの拾った風の音や、不適切なレベル調整で割れまくったような音など。 もちろん、映画用のハイヴィジョン映像も使われている。 その画質・音質のテクスチャの違いで何か物語るというよりも、リズムを作り出しているように感じられたのも面白かった。 Film Socialisme でも ECM レーベルの音楽が使われてはいたが、 ECM のイメージ・ビデオのようだった1990年代の Godard の映画から大きく変わったなあ、と。