2008年に 山口情報芸術センター (YCAM) で始ったサウンドインスタレーションとライブのプロジェクト 『ENSEMBLES』。 一年余前に観た『ENSEMBLES 09 休符だらけの音楽装置』展の東京での2つの展示が良かった [レビュー] ので、水戸まで足を運んでみた。 確かに 原宿VACANT や 旧千代田区立練成中学校屋上 でのインスタレーションの変奏だったけれども、 水戸芸術館現代美術ギャラリーの広い展示スペースを駆使した大規模な展示を楽しめた。
第1〜6室は個別のインスタレーションのようであり、それでいて緩く繋がっているのも良かった。 最も気に入ったのはスネアドラムを中心に打楽器を並べた明るい第1室。 自分が観ている間に派手に音が鳴ることは無かったが、時折人を驚かすかのように鳴るのが面白かった。 少し照明を落としたギャラリーに古いポータブルレコードプレーヤーやラジオを配置した5室では、 VACANT に近い雰囲気でありながら VACANT で感じたノスタルジーをあまり感じられなかった。 歴史を感じさせないホワイトキューブ的な空間、 もしくは、グランドピアノを使った装置も置かれていたせいだろうか。 グラウンドピアノ2台、アップライトピアノ1台を使っていたあたり、 美術館を会場としているらしいかな、とも思った。
そんな中で、少々異色に感じたのが、第7室の 中崎 透 のインスタレーション。 レコードやカセット、CDに、ギター類を濃密に圧縮した空間は、 大竹 伸朗 のインスターレーションとかも連想させられたが、 その構造が祭壇のようで、そこに少々薄気味悪さを感じてしまった。
水戸芸術館から歩いて10分弱所にある古い木造平屋住宅に 3つのオルタナティヴスペース (遊戯室、spam、Space AFA) が入っている 水戸のキワマリ荘 での 関連展示 『kiwamari ENSEMBLES』 にも足を伸ばしてみた。 数年前から名前を聞くものの行くのは初めて。 リノベーションというほど手は付けられておらず、ホワイトキューブ的に手を入れられた展示2室以外は、 溜まり場的な生活臭溢れるスペースだった。 似たようなインスタレーションがありながら、水戸芸の第7室のような祭壇っぽさを感じずに済んだのは、 この生活臭のおかげもあるかもしれない。
併せて、この展覧会関連企画のコンサートも観て来た。 音遊びの会は、知的障害者 と ミュージシャン によるワークショップやコンサートを行っている 神戸を拠点とするグループ。 コミュニティ・アートの実践の一事例という関心で気になっていたのだが、 去年3月の 3331 Arts Chiyoda オープニングの際のコンサートを見逃したこともあって。 ダブル・オーケストラ を観るのも初めて。 John Zorn の Cobra を対戦型にしたようなゲームピースの即興だ。 post-free の1970年代に Cobra や Conduction (by Butch Morris) が出てきたときは、 むしろ、free の手癖の垂れ流しや単なる音の出し合いのような単調さから脱するために 指揮やゲーム的な構造を入れたという面もあったと思う。 しかし、今回のコンサートは 音遊びの会 が入ったこともあるとは思うが、 ダブル・オーケストラにおける指揮やゲーム的構造は、 むしろ、手癖や単なる音の出し合いを積極的に良しとするコンテクストを作るためのように感じられた。 ゲームピースのコンセプトが一回りしたようで感慨深かったし、 「ノン・ミュージシャン」としての大友らしいアプローチなのかもしれない。 コミュニティ・アートとの親和性も高いだろう。 しかし、こういう音楽は、観ているより、自身も参加した方が楽しいだろう、と思った。