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Review: She She Pop: Testament @ 神奈川芸術劇場 中スタジオ (演劇)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2011/02/21
Testament
シー・シー・ポップ 『遺言/誓約』
神奈川芸術劇場 中スタジオ
2011/02/19. 19:30-21:30.
Konzept: She She Pop.
Mit: Sebastian und Joachim Bark, Fanni und Peter Halmburger, Mieke und Manfred Matzke, Lisa Lucassen, Ilia und Theo Papatheodorou.
Uraufführung: 25. Februar 2010, HAU 2 Berlin.

ベルリンとハンブルグを拠点に活動する劇団 She She Pop による William Shakespeare の四大悲劇『リア王』 (King Lear, 1603-6) に基づく舞台作品だ。 といっても、単純に現代を舞台に翻案するのではなく、 現在の老後の介護や相続の問題を『リア王』のエピソードと重ねて ドキュメンタリー演劇やメタ演劇の手法を使って議論化していくもの。 しかし、形式的な実験という感じでもなく、ユーモアもあり、少々身につまされる所もある作品だった。

この作品では She She Pop の4人の俳優だけでなく その実父3人を舞台に上げ (1人は健康上の理由で上げなかったようだ)、 『リア王』のエピソードやセリフをきっかけに、実父との関係をとりあげていく。 老後の介護の保障と遺産分配のタイミングの議論のような比較的ストレートなものから、 例えば、百人の従者を減らすようリア王が長女次女から言われるエピソードから 実父との老後の同居の際に持っている蔵書そのまま持って来られたら困る、という話に繋げたり。 むしろ、後者のようなズレを伴うものの方が面白く感じられた。

また、この舞台作品の制作準備中のやりとりを作品に取り込んでいた。 これは舞台上で披露されるエピソードが事実と虚構が入り混じったものであると示す効果もあったと思うが、 それだけでなく、実父と作品を作ることということ自体が一つの世代交代のセレモニーになっているようにも感じられ (実際に世代交代のセレモニーの場面もあった)、そこが面白かった。

舞台に上げられた実父たちは、皆、いい感じに年を取った品のある老人。 演劇という意味では素人とはいえ、人前でちゃんとした話ができるような人で、 これもこの舞台を好感を持って観られた一因だったかもしれない。 エピソードを聞いていると、引退前の仕事は大学教授と建築家。 一人は職業は判らなかったけれど、おそらく軍政時にドイツへ亡命したギリシャの左翼知識人。 また健康上の理由で舞台に上がれなかった一人は3階建ての屋敷を持つビジネスマンだ。 正直、みんな立派な親を持っているんだなあ、と観ていて感心した。 この舞台の話は「財産と教養ある市民」のレベルの話で、 それだからこそ『リア王』のエピソードを議論の契機として使えたのかもしれない。 ある意味ではこれがこの作品の限界かもしれないが、観劇をする客層を考えるとこれで問題無いのかもしれない。

ちなみに、この公演は 『世界の小劇場 〜vol.1 ドイツ編〜』 の一つであった。 また、TPAM (国際舞台芸術ミーティング) の連携企画でもある。 この一環として、 andcompany&Co.: Mausoleum Buffo [レビュー] Rimini Protokoll: Black Tie [レビュー] の公演も行われた。(2011/02/27追記)