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Review: Rimini Protokoll: Black Tie @ 神奈川芸術劇場 大スタジオ (演劇)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2011/02/27
Black Tie
リミニ・プロトコル 『ブラック・タイ』
神奈川芸術劇場 大スタジオ
2011/02/26. 18:00-19:30.
Buch: Helgard Haug & Daniel Wetzel. Co-Autorin: Miriam Yung Min Stein.
Mit: Miriam Yung Min Stein, Hye-Jin Choi, Ludwig.
Uraufführung: 11.12.2008, Berlin HAU DREI.

Rimini Protokoll は ドキュメンタリー演劇 (documentary theatre) で知られるドイツの演劇ユニット [関連レビュー]。 そんな彼らによる、1977年に韓国に孤児として生まれ養子としてドイツで育てられた 女性 (Miriam Yung Min Stein) の人生を舞台化した作品だ。 Miriam 自身が舞台に立ち、アイデンティティ、養子ビジネス、遺伝子検査ビジネスなどの問題等を コンピュータを操作しながら関係する写真や書類をプロジェクタに投影しつつ、 感情を排して淡々と語っていく。それがぐっと心を打つ舞台だった。

この舞台を観ていて思い出したのは、 ポピュラー音楽評論家が Greil Marcus が postpunk の歌について述べた 「言っていることが自分自身の体験を語っているのであれば誰にも批判はできないというあのハイスクール説教に守られた心からの陳述というものがない」だ。 そう、Miriam が自身について語っているにも関わらず、 聞き手にはどうしようもない感情の吐露ではなく、 むしろ議論すべき社会問題のプレゼンテーションをしているかのよう。 それを支えていたのは、データグローブらしきものを Miriam が右手にはめ、 それを使ってコンピュータを操作しながら、プロジェクタ投影される写真や資料を切り替え、 投影されたものについて説明するように語って行くというスタイルだ。 先に写真や資料を示し、それについて説明を通して自分の思いに入って行くことにより、 表現と感情との間に適切な距離が作られていた。 しかし、途中、映像投影が消えてしまうという機材トラブルがあった。 1分程で復帰したが、このような機材を使うパフォーマンスはトラブルのリスクが大きいな、と実感。 そんなトラブルにも動じた様子を見せずにパフォーマンスを続けたのも素晴らしかった。

もちろん、Miriam 自身のセリフも冷静で、情に訴える感じでは無い。 韓国放送公社 KBS による実親探し番組「朝の広場」の映像を投影しつつ この番組に出たいとは思わないと言ったり、 欧米のセレブリティがよく行う孤児養子縁組の偽善的な意識について言及したり。 それは、声を荒げて批判したり問題を告発するようなものではなく、 むしろ冷ややかに視線を向けているよう。 その冷静な視線を、長年にわたり韓国が放置してきた人身売買同然の国際養子ビジネスや、 時に誤った検査結果を送り返してくる高額な遺伝子検査ビジネスにも向ける。 それが表面的な皮肉に堕しているように感じなかったのは、Miriam 自身が安全圏にいるわけではない (彼女は国際養子ビジネスで売られた可能性もあるし、アイデンティティを求めて遺伝子検査を利用している) ということがあるのかもしれない。 距離を置くわけでなく、感情を露にするわけでなく、冷静な口調でそういったことを語る Miriam は 凛々しくすら感じられた。

そんな Miriam が、遺伝子検査の結果明らかになったアルツハイマー病の遺伝子を承け、 エンディングで、音楽業界で働く彼女が持つ音楽にまつわる記憶をいろいろ挙げつつ、 いずれそれが判らなくなっていくだろうと畳み掛けるように語った。 それは、決して感傷的なものではないが、内に秘めた感情が溢れてくるかのよう。 そしてそれは、東洋系ながらヨーロッパに養子として育てられることにより 抱えざるをえなかったアイデンティティの問題や 養子ビジネスや遺伝子検査ビジネスの問題に直接関係するものでは無いけれども、 そのクールな語り口の裏に秘めた彼女の強い感情に触れたかのような感覚に打たれた。

正方形に近い形の台を舞台として使っていたが、 その観客に近い側にロールアップするスクリーンを垂らし、 ほとんどのパフォーマンスはスクリーンの前やその両脇に作られた2つの演台の所で行った。 感情を身振りで表現するようなことはほとんど無く、その抑制された感じも、作品に合っていた。 また、実親の下で育ちヨーロッパへ留学した韓国女性 (Hye-Jin Choi) も登場するのだが、 見た目もクールな Miriam に比べ、普通に可愛らしい感じで、良い対比を成していた。 音楽は舞台左後方で Ludwig (aka Peter Dick) が electric guitar も使ったアトモスフェリックな electronica をライヴで添えていた。

Rimini Protokoll を観るのはこれで4作品目。 それぞれ形式的にかなり異なっており、 決まったやり方に落とし込むようなことはしていないだな、と感心する。 今回の作品は他に比べ若干ユーモアが控えめに感じたけれども、最も心を打たれた作品だった。

ちなみに、この公演は 『世界の小劇場 〜vol.1 ドイツ編〜』 の一つで、 また、TPAM (国際舞台芸術ミーティング) の連携企画でもある。 この一環として、She She Pop: Testament [レビュー] と andcompany&Co.: Mausoleum Buffo [レビュー] の公演も行われた。