内戦孤児やストリートチルドレンへの教育を主目的とした カンボジアの美術・音楽・サーカス学校を運営するNPO Phare Ponleu Selpak の新作の日本公演が、 越後妻有アートトリエンナーレ 2012 の パフォーミング・アーツのプログラムの一つとして上演されたので、 トリエンナーレを観に行くのに合わせて観てきた。 2007年にも彼らの公演を観ているが、それよりも作品としての洗練を感じるものだった。
2007年に観た Holiday Ban Touy Ban Tom は 「ストリートチルドレンの日常生活」という枠組みを使い、 物語性はそこそこに各演技がばらばらにならない程度に繋いでおり、 元気溌剌に演技していればそれなりに様になったところはあった。 しかし、新作のテーマは内戦を乗り越えその後の復興・近代化で変容していくカンボジアを生きた女性の一生、 『おしん』すら連想させられる物語を描くというものだった。 それもベタな演技・セリフや舞台装置の転換でそれを描くのではなく、 女性の一生の各ステージをサーカス・パフォーマンスで象徴的に、 背景となるカンボジアの社会情勢も可動式のイーゼルに載せたキャンバス (予めある程度描かれている場合もある) に具象的に時に抽象的な絵画として ライブペインティングで描き示して行く。 そんな物語性と抽象的な表現のバランスに、前に観た作品以上の洗練を感じた。
特に印象に残ったのが、主人公の女性の青春期 (おそらく性の目覚め) をインキュバスに襲われる場面として描いたところ。 これを描くのに女性のコントーションと男女ペアのアクロバットを使うというのがハマっていたし、 最後に倒立で足で弓を引き象徴する風船を矢で射てその苦悩の克服を象徴するという演出も良かった。 また、息子 (もしくは教え子) を更生させる場面で、 子役の男性の黒い玉のジャグリングで悪い状態を示しつつ、 女性が明るい色の玉に持ち替えさせ玉数を増やさせていくことにより、 子供の更生を象徴するような表現も印象的。 そんな、表現しようとする女性の人生のステージと、 それを象徴させるサーカスの技の組み合わせのアイデアが、面白く感じられた作品だった。
もちろん、Phare Ponleu Selpak は、 縄跳びやアクロバット、床体操のような技での元気溌剌軽快な身のこなしが楽しいのも確か。 エンディング近くでは観客の手拍子に乗った男性パフォーマーの団体演技で盛り上げた。 劇伴の音楽も、男女2人のミュージシャンによる 民族楽器、キーボード、ドラムセットなどを使っての生演奏で、演技との一体感を楽しめた。