2010年から3年ぶりに開催された『現代イプセン演劇祭2013』。 その中で上演された、1988年に Visjoner Teater を設立して活動するノルウェーの女優 Juni Dahr の一人芝居を観てきた。 予習する余裕も無く臨んだ上、字幕が見辛い席での観劇で、 セリフを多用するノルウェー語の演劇はかなり辛いものがあった。 内容をどれだけ理解できたか心許ないものがあり、 初演が1989年と四半世紀近く演じ続けている作品で斬新な演出を楽しむようなものでもなかったが、 直前に FESTIVAL/TOKYO で俳優では無い人を使った作品を観たばかりだったこともあり、 ヨーロッパの正統な演劇はこういうものか、と、感慨深く観ることができた。
近代リアリズム演劇のノルウェーの劇作家 Henrik Ibsen [ヘンリック・イプセン] の戯曲の6人の女性の登場人物 Hilde [ヒルデ] (Bygmester Solness 『棟梁ソルネス』, 1892), Hedda [ヘッダ] (Hedda Gabler 『ヘッダ・ガブラー』, 1890), fru Alving [アルビング夫人] (Gengangere 『亡霊』, 1881), Nora [ノーラ] (Et dukkehjem 『人形の家』, 1879), Ellida [エリーダ] (Fruen fra havet 『海の夫人』, 1888), Hjørdis [ヒョルディス] (Hærmændene paa Helgeland 『ヘルゲランドの勇者達』, 1857) を演じるというもの。 それだけではなく、冒頭では Ibsen の戯曲の女性を初めて演じたという 19世紀末〜20世紀初頭イタリアの女優 Eleanor Duse が Ibsen の許を訪れるものも Ibsen は病に臥せていて面会が叶わなかったという逸話を演じ、 それらの合間に Juni Dahr の Ibsen 戯曲の女性像を省察とでもいうものが挟まっていた。 メタな省察の所と登場人物の役を演じる所を繋げていく演技力はさすが。 そんな所もあって、6人の登場人物をそれぞれ特徴を捉えて演じ分けるというより、 むしろ、Ibsen の女性像の特徴を浮かび上がらせつつも、 一人の女性の多様な面を示すかのように演じているよう。その二面性が面白かった。
音楽は舞台脇で Chris Poole がライブで伴奏していた。 flute を演奏しつつライブでディレイやリバーブなどのエフェクトを強くかけ、 明確な旋律を吹くというより、テクスチャを強調したような音楽を、控えめに添えていた。 そんな音楽もシンプルな女性の一人芝居に合っていた。 彼女はデンマークの人だが、 Rune Grammofon か NOR-CD のリリースにありそうな音楽という意味で、 いかにもノルウェーらしい音に感じられた。