jazz のスダンダードでもあり、The Doors など rock の文脈でもカバーされることの多い Brecht / Weill の “Alabama Song”。 さすがにこの歌は口ずさめるほど知っていましたが、元のオペラ Aufstieg und Fall der Stadt Mahagonny [Rise and Fall of the City Mahagonny] (1930) を観たことがありませんでした。 イギリス Royal Opera による新演出の舞台が live cinema でかかったので、 英語訳とはいえ、一度観ておくいい機会だろうと、足を運んでみました。
戦後に発展した Las Vegas を予見していたかのようなアメリカの砂漠の中の歓楽の街という設定の街 Mahagonny の興亡を、 アラスカで苦労して稼いできたお登りさん4人組が食、色、暴力、酒に取り憑かれて身を滅ぼしていく様を通して、風刺的に描いた作品です。 Royal Opera House ならではの金のかかった舞台美術で、ぎらついた Mahagonny の街の雰囲気を堪能しました。 貨物コンテナをメインのモチーフに使い、それを舞台中舞台のように使ったり、壁のように積み上げたり。 それも字幕が多用されるのも、歓楽街のネオンサインと左翼のスローガンが衝突するかのよう。 Royal Opera House のダイナミックなプロジェクションマッピングは Alice's Adventures in Wonderland 『不思議の国のアリス』 [鑑賞メモ] でも観てますが、 回転し移動するコンテナに直接書かれているかのようにピッタリと投影していく所など、見応えありました。
オペラというよりアンチオペラとでもいうスタイルで、感動的に聴かせるような場面はほぼ皆無。 歌というより節付きのセリフに近いものがありました。 繰り返し歌われる “Alabama Song” も他のセリフが被せられがちで、 ソロでしっかり聴かせるような場面がほとんどありませんでした。 歌として聴かせるカヴァーを通して親しんでいた曲だけに、かなり意外な印象を受けました。 第2幕で売春宿のに並ぶ客たちが “Der Song von Mandelay” (元は Happy End (1929) の歌) を歌う場面があるのですが、 それもほとんどそれと分からないほどに変形されていました。 これも John Fulljames の演出なのかもしれませんが、Brecht の「異化」を思わせる演出と感じました。 そんな中、第一幕の Mahagonny に売られてきた Jenny を含む娼婦たちがトレーラーのコンテナから降りてくる場面では、 “Alabama Song” をテーマを提示するかのようにしっかり聴かせ、その場面が強く印象に残りました。
歌詞は英訳でしたが、舞台がアメリカということも考えると、英語での上演も十分に良いように思いました。 英訳にしたのは歌詞と音楽の食い違いがわかるようにという演出家の意図のようでしたが、そこまで捉えられたかは、心許ないものがありましたが。
去年、The Winter's Tale [鑑賞メモ] と Alice's Adventures in Wonderland [鑑賞メモ] と Royal Opera House のバレエの live cinema を観ましたが、オペラを観るのは初めて。 動きも小さいですし、字幕も見やすいですし、バレエよりもオペラの方が live cinema との相性が良いかもしれません。 live cinema もバレエだけでなくオペラにももっと足を運びたいものです。