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Review: 牛原 虚彦 (dir.) 『若者よなぜ泣くか』 (映画)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2015/09/24

神保町シアター『松竹120周年記念 百花繚乱――昭和の映画女優たち』で 小林 弘人 によるピアノ生伴奏付きで上映されたこのサイレント映画を観てきました。

『若者よなぜ泣くか』
1930 / 松竹蒲田 / 白黒 / サイレント / 158 min.
監督: 牛原 虚彦.
鈴木 傳明 (上杉 茂), 田中 絹代 (妹 上杉 梢), 藤野 秀夫 (父・上杉 毅一), 吉川 満子 (その妻 上杉 歌子), 岡田 時彦 (児島 藤介), 山内 光 (香取 秋三), 小林 十九二 (小原 平吉), 川崎 弘子 (小原 弓子), 坂本 武 (赤沢), etc

あらすじ: 内相 上杉 は若い 歌子 を後妻に迎えるが、家庭を顧みずに社交に遊ぶ歌子に、 高等学校最後の休暇に実家に戻った長男 茂は反発し、妹 梢と家出する。 二人は下町で長屋住まいを始めるが、親しくなった隣室の 小原 平吉 の紹介で、茂は 新聞社 へ職を求めに行く。 新聞社の編集長は茂の学生時代の親友 児島で、二人は再会を果たし、茂も新聞社で働くことになる。 児島に頼まれ茂は実業家 大宮へ取材に行くが、そこで大宮が新聞記者を買収するのを見て、茂は反発する。 茂と隣室 小原の妹 弓子は密かに好意を寄せるが、のんだくれの父が弓子を売ろうとしているにもかかわかず、どうすることもできない。 そのうち小原は引越して行ったが、引越先を訪れてみると、弓子は新聞社の営業部長 赤沢の妾にされていた。 そのうち、新聞社の経営者が大宮となり、児島が馘となる一方、赤沢や小原が昇進することを知ると、 茂は新聞社を辞め、空き瓶集めで糊口をしのぐようになる。 上杉 歌子 や実業家 大宮 の妻 元子をパトロンにする小説家 香取は、パーティの席で彼女たちの不正を耳にし、世話になっていた 児島 に教える。 児島は香取を証人に上杉を告訴することとし、茂もそれを応援する。 茂が家に戻ると、告訴された父は家庭を顧みなかった自分を反省し、政界から引退すると言う。 父は茂に戻るように言うが、茂は児島の母を任されているので、今すぐは戻れないと答える。 しかし、パトロンたちを前に香取が翻意してしまったため、告訴は証拠不十分になってしまい、裁判には負けてしまう。 その後、香取はパトロンの支援で婦人新聞を創刊するが、いたたまれず自殺してしまう。 児島と茂が香取の亡骸をひきとり弔っていると、小原が現れ、妹の弓子が自殺未遂のすえ発狂したことを告げる。 茂はそんな弓子と結婚することを決意する。 数年後、どん底から脱した茂と弓子、児島と梢の2組のカップルは、 隠居して別荘地住まいとなった父と、子を産んだばかりの継母 歌子を訪問しようとボードで向かうのだった。

ブルジョワな家庭の欺瞞が耐えられずに家を出るという話といえば 清水 宏 (dir.) 『七つの海』 (松竹蒲田, 1931/1932) [鑑賞メモ] も連想させられる話ですが、主人公はあくまで 鈴木 傳明 演じる上杉 茂。 弓子との関係もありますが、それはサイドストーリーで、 むしろ、岡田 時彦 演じる親友の児島の方が丁寧に描かれていました。

『七つの海』だけでなく、清水 宏 (dir.) 『銀河』 (松竹蒲田, 1931) や 島津 保次郎 (dir.) 『麗人』 (松竹蒲田, 1930) [鑑賞メモ] など、 サイレント期の松竹メロドラマといえば、ブルジョワ階級と下層階級の対比の中で、 女性を中心に据えて、その悲劇と復讐を描くというパターンがみられます。 そんな中で、男性を中心に据えた映画もあったのかと、新鮮でした。 鈴木 傳明 も 岡田 時彦 はかっこいいし (特に、丸メガネの岡田 時彦がクール)、 同時代のアヴァンギャルドの映画からの影響も感じるカメラワーク、画面作りも楽しめました。

終盤になって、社会正義のための裁判に裏切られて負け、裏切った友は自殺し、想いを寄せた女性は敵の妾にされて発狂し、 救いようのない展開にどう決着付けるのかと思いきや、まさかの大飛躍。 それまでが良かっただけに、御都合主義というレベルではない取って付けたエンディングが残念な限りでした。

女優に注目して見ると、田中 絹代 は確かにヒロインだし、川崎 弘子 も相変わらず不幸な女の役だけれど、 メインに据えて撮られた同時代の他の作品もあるだろうに、どうして映画女優という特集でこの映画が選ばれたのだろう、と。 2014年ゴールデン・ウィークの上映を見逃していたので、見られたのは嬉しいのですが、ちょっと釈然としない所もありました。