千葉市美術館開館20周年として企画された、杉本 博司 の個展。 開館記念展第二弾『Tranquility―静謐』 [レビュー] で展示した「海景」シリーズをコレクションとしており、それを承けての個展とのこと。 二部構成で『今昔三部作』では代表作の写真シリーズを、 『趣味と芸術―味占郷』では骨董コレクションを使ったインスタレーションを展示していた。
『今昔三部作』では代表作の白黒写真連作、1975年に始めた「ジオラマ」、「劇場」、1980年に始めた「海景」から16点展示していた。 美術館コレクションではなく、作家スタジオ蔵の大判プリントを用いた展示となっていた。 クラシカルな映画館の内部を映画上映中に長時間露光で撮った「劇場」や、 様々な水平線を画面を水平二分割するように撮った「海景」は、 暗いギャラリーに浮かび上がる白黒写真がミニマルで美しいだけでなく、 切り出されたある瞬間 (瞬時値) を観るのではなく、累積値や差分を観るという面白みもあるシリーズだ。 約20年前の『Tranquility―静謐』展やハラ ミュージアム アークでの個展 [レビュー] から、新たに気付かされた所は無かったけれども、 久々にこれらのシリーズをまとめて観て、その美しさと面白さを再確認した展示だった。
『趣味と芸術―味占郷』では、雑誌『婦人画報』で連載中の「謎の割烹 味占郷」で 杉本のコレクションを用いてゲストに合わせた構成した床飾りを再現したもの。 「セレブ」を割烹で饗応という設定が、芸術的な奥深さや良き趣味生活を感じさせるというより、 いかにも雑誌記事的なキッチュさ胡散臭さ。 しかし、そういう設定を抜きに観ると、 特に杉本の骨董コレクションと 須田 悦弘 による繊細かつリアルに草花を彫った木彫を合わせたインスタレーションなど、 なかなか良い雰囲気を楽しむことができた。
1990年代に写真作品を中心に好んで観ていたものの、 2000年代以降、骨董趣味を表に出すようになってからは引いていたこともあって、 この個展にはあまり期待してはいなかった。 確かに『今昔三部作』の方が楽しめたけれも、『趣味と芸術―味占郷』の中にも良いと感じるものもあり、 期待以上に良い展覧会だった。