毎年2月に東京都写真美術館で開催している映像作品を中心とした展覧会。 東京都写真美術館が改装のため休館中ということで、去年に続いて今年も、 ザ・ガーデンホールをメイン会場に、ガーデンプレイス界隈の各所を会場に開催している。 美術展向けではないスペースでの展示で、会場が雑然とした雰囲気になてしまっているのは、仕方ないとはいえ残念。 全体としては漠とした印象になったが、印象に残った作品について。
クワクボリョウタの新作「映像と風景」は、照明を落とした暗いギャラリーに作られた鉄道模型のジオラマの上で光源を載せた車両をゆっくり走らせるインスタレーション。 「10番目の感傷(点・線・面)」 [レビュー] のバリエーションだが、 車窓の風景を思わせる動く影のノスタルジックな美しさは、相変わらず良い。 このインスタレーションは2編成を走らせることで、投影される影も重層的。 すれ違いによる互いのシルエットの動きにはスピード感もあり、1編成の時よりも楽しめた。
中谷 芙二子 はガーデンプレイス センター広場を使って「霧の庭“ルイジアナのために”」を展示していた。 霧の彫刻は、以前にヨコハマトリエンナーレ2008の出展作品「雨水物語 — 懸崖の滝 Fogfalls #47670」を 三渓園 で観たことがあるが [レビュー]、 それに比べるとセンター広場という場所は風情が無く、まるでダンプカーの形をした特殊な噴水のよう。 観た2月13日は風が強く、霧が静かに立ち込めるというより、激しく吹き付け舞い上がっていて、それはそれで迫力は楽しめたけれども。
絵皿に砂と岩絵具の粉末を敷いてアリジゴク (ウスバカゲロウの幼虫) に砂絵を描かせた 銅金 裕司 「シルトの岸辺−動く絵」や 虫の足音をコンタクトマイクで拾って増幅して聴かせる 佐々木 有美 + ドリタ 「Bug's Beat」など、 小さな虫のささやか動きを可視化・可聴化するような作品も、その仕上がりの綺麗さも含めて印象に残った。 3種類の臭いの入った小瓶をグリット状に吊るし並べて観客に同じ香りを辿って歩かせるインスタレーション 上田 麻希 「嗅覚のための迷路」は、 飾り気の無いサンプルのような小瓶に香水等ではなく工業的な溶剤を使っている所に、 純粋に嗅覚のみを対象とするようなミニマリズムを感じられて良かった。
展覧会のテーマ「動いている庭 (Garden in Movement)」は 荒地の植生に着想したフランスの庭師 Gilles Clément の庭から取られている。 しかし、それに関する展示よりも、採石場跡の荒廃した大地に大量のアスファルトをぶちまける 1960年代末のランドアート作品 Robert Smithson: Rundown の Jane Crawford & Robert Fiore によるドキュメンタリー映像の、暴力的とも言える衝動が印象に残った。 その違いに、環境問題等が前景化する前後の美術に関わる人々の意識の変化を見るよう。
こうして振り返ると、映像祭とはいえど、ビデオインスタレーション等のビデオを使った作品よりも、 そうではない作品の方が印象に残った展覧会だった。