婦人之友社によって1914 (大正3年) 年から1943 (昭和18) 年まで発行された子供向けの絵本雑誌 『子供之友』の資料を、原画を中心に構成した展覧会です。 絵を描いていたのは、北澤 楽天、竹下 夢二、武井武雄から、村山 知義、夏川 八朗 (柳瀬 正夢) まで。
北澤 楽天 は初代の絵画主任。この展覧会の中では、最も細かく描き込んでいた作家でした。 イベント等の様子を風刺やユーモアを込めてパノラマ的に描く作風や、比較的リアルな動物キャラクターを使うところなど、モダンな鳥獣戯画のよう。そんな所が楽しめました。 竹下 夢二 は同じ婦人之友社の雑誌『新少女』 (1915年創刊) の絵画主任で知られますが、 こちらでも多くの絵を描いていました。 男女を問わない子供向けの雑誌ということで、乙女的な表現は控えめ。 そんなこともあってか、余白の多い絵は、村山 知義 の作風と共通する所も感じられました。
1920年代になると「童画」の 武井 武雄 [関連する鑑賞メモ] や 村山 知義 などが登場します。 村山 知義 の絵本の仕事については、『すべての僕が沸騰する——村山知義の世界』 [鑑賞メモ] でも観る機会があったが、同時代の他の作家と比べるとモダンさが映えます。 出展作家の中でも最も楽しめました。 描かれている子供の服髪型もしゃれているのですが、 斜め上から見下ろしたように少女が木馬を牽く様子を描いた「東京のまちの馬」 (1924) の 背の高い順に並んだ子供たちを背中側から描いた「せいの順」 (1926) など、アングルにも面白さがあります。 村山とマヴォ (Mavo) 繋がりの 柳瀬 正夢 も 夏川 八朗 名義で描いており、 露天掘りの炭鉱を描いた「石炭」 (1942) が出ていました。 手前のパワーショベルから鉱山の向こうの遠景までダイナミックに画面に入れるところなど、 題材も含めモダンなセンスが映えているようで、実は、浮世絵の手法にも通じる所もあり、そこが面白く感じました。
原画だけでなく、雑誌本体を含めて他の資料も展示されています。 欠巻も1〜2割ありましたが『子供之友』の雑誌がずらりと並べて展示されており、 その表紙の変遷に、時代の変化を感じました。 初期の絵を中心としたシンプルでモダンなものから、絵がリアルになったり、写真を使ったりと、次第に細かくなるのも、技術の進歩のせいでしょうか。 特に、原色に三色を背景に子供の黒いシルエットが描かれた1932年から、 リアリズム的な動物の絵となる1933年の変化が、大きく感じられました。
描かれている題材も今の自分の目から見てさほど違和感の無いものが多く、 この絵本の頃にはクリスマスは既に子供の行事だったのだなあ、と、感慨深いものがありました。 そんな感じで、大正のロマンチックな時代から震災後から戦中にかけてのモダンな時代の雰囲気を、 十分に楽しむことができました。