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Review: 『すべての僕が沸騰する —— 村山知義の世界』 @ 神奈川県立近代美術館 葉山 (美術展); 『生誕100年 藤牧義夫展 —— モダンとしの光と影』 @ 神奈川県立近代美術館 鎌倉 (美術展)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2012/03/17
Murayama Tomoyoshi: Get All of Me Seething
神奈川県立近代美術館 葉山
2012/02/11-2012/03/15 (月休), 9:30-17:00.

1920年代に前衛美術団体 マヴォ (Mavo) や劇団 前衛座や左翼劇場 など 美術・デザインから演劇、小説に至るまで幅広いジャンルで活動し、 戦後も児童書や演劇の分野で活動を続けた作家の本格的な回顧展だ。 2005年には東京藝術大学大学美術館で 『マヴォ/メルツ クルト・シュヴィッタース/村山知義 ― 日本におけるダダ』展 [関連発言] があったし、 最近では、『大正イマジュリィの世界 —— デザインとイラストレーションのモダーンズ』 (渋谷区立松濤美術館, 2010) [レビュー] も記憶に新しい。それなりに観る機会はあったが、仕事が多岐にわたるだけに、 この展覧会でやっと全体像が掴めたように思う。

村山は1922年から23年にかけてベルリンに滞在し、 そこで当時の戦間期欧州アヴァンギャルド/モダニズムの芸術運動を見聞し強く影響を受けている。 その影響を受けた戦間期欧州アヴァンギャルド/モダニズムに関する資料が多く展示されていた。 特に、ダンス・パフォーマンスにおける影響源である 女性ダンサー Niddy Impekoven に関する資料が、 映画映像 (2分弱の短いものだが) をはじめとして充実していた。 他にも、イラスト・諷刺画などで Berlin Dada の George Gross に 影響を受けていたことにも気付かされた。

村山 自身の仕事では、挿画・イラストレーションが最も興味深く観られた。 いわゆる左翼プロパガンダ的なグラフィックデザインだけではなく、 今和次郎の考現学風のイラストでも面白い仕事をしていたのだと気付かされた。 特に、『1930年型プチ山ブル子嬢の心臓を震動させるイットたち』 (1930) というイラストは、 この言葉を含めてツボにはまった。 Impekoven に影響を受けたというダンスをはじめ、 演劇・ダンス関連の作品についてはスチル写真しか観られず、少々物足りなかった。 そんな中では、村山が舞台装置を手掛けた『朝から夜中まで』 (築地小劇場, 1924) が 舞台装置模型だけではなく当時の写真も多く展示されていて、 そのモダンな雰囲気にとても惹かれるものがあった。 あと、絵本・児童書の仕事のコーナーで、1931年制作のアニメーション作品 『3びきのこぐまさん』 が液晶モニタ上映されていた。存在は知っていたが観たことがなかっただけに、 展開も突飛でユーモラスなアニメーションを楽しんで観ることができた。

FUJIMAKI Yoshio: Centennial of His Birth
神奈川県立近代美術館 鎌倉
2012/01/21-2012/03/15 (月休), 9:30-17:00.

1932年に 小野 忠重 らが結成した 新版画集団 に参加するなど 1930年代前半に活動し、1935年に失踪してしまった版画作家の回顧展。 この展覧会で知った作家だったが、日本近世の書画をバックグラウンドに持ちつつ、 非常にモダニスト的な作品を制作している所が、とても興味深く観られた展覧会だった。 分業体制による新版画ではないものの浮世絵に学んだ 小野 や 藤牧 らの 版画 は、 同じく戦間期モダンの 新舞踊 [関連レビュー] などとも並行する動きだったと言えるもの。 版画以外の作品でも、鉄橋やガスタンク、工場などすっかりモダンな景観となった隅田川を 近世的な技法の長大な白描絵巻で描いたものがあり、こんなモダンな絵巻があったのかと。 そんな、新版画の界隈についての興味をかきたてられた展覧会だった。

家に帰って 新版画集団 について調べていて、次の論文があることに気付いた: 小山 周子 『戦前の木版画制作と浮世絵―浮世絵研究雑誌における版画論争より―』 (総研大文化科学研究 第4号, 2008)。 藤牧 らの 新版画集団 の立ち位置や背景も伺える論文で、展覧会と併せて読むことをお薦めしたい。