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Review: Metropilitan Opera / Ex Machina, Robert Lepage (dir.), Richard Wagner (comp.): Der Ring des Nibelungen 『ニーベルングの指環』 @ Metropolitan Opera House (オペラ / event cinema)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2016/8/27
『ニーベルングの指環』
Composer, Librettist: Richard Wagner.
Director: Robert Lepage.
A Metropolitan Opera (New York) production in collaboration with Ex Machina Québec)
Das Rheingold
『ラインの黄金』
from Metropolitan Opera House, 2010-10-09.
Cast: Bryn Tarfel (Wotan), Stephanie Blythe (Fricka), Richard Croft (Loge), Eric Owens (Alberich), Wendy Bryn Harmer (Freia), etc.
Conductor: James Levine.
上映: 東劇, 2016-08-15 11:00-14:30 JST.
Die Walküre
『ワルキューレ』
from Metropolitan Opera House, 2011-05-14.
Cast: Deborah Voigt (Brünnhilde), Bryn Tarfel (Wotan), Stephanie Blythe (Fricka), Eva-Maria Westbroek (Sieglinde), Jonas Kaufmann (Siegmund), Hans-Peter König (Hunding), etc.
Conductor: James Levine.
上映: 東劇, 2016-08-15 15:00-20:14 JST.
Siegfried
『ジークフリート』
from Metropolitan Opera House, 2011-11-05.
Cast: Jay Hunter Morris (Siegfried), Deborah Voigt (Brünnhilde), Bryn Tarfel (Wotan), Gerhard Siegel (Mime), Eric Owens (Alberich), Patricia Bardon (Erda), Hans-Peter König (Fafner), Mojca Erdmann (The Voice of a Woodbird), etc.
Conductor: Fabio Luisi.
上映: 東劇, 2016-08-16 11:00-14:46 JST.
Götterdämmerung
『神々の黄昏』
from Metropolitan Opera House, 2012-02-11.
Cast: Deborah Voigt (Brünnhilde), Jay Hunter Morris (Siegfried), Hans-Peter König (Hagen), Waltraud Meier (Waltraute), Iain Paterson (Gunther), Wendy Bryn Harmer (Gutrune), Eric Owens (Alberich), etc
Conductor: Fabio Luisi.
上映: 東劇, 2016-08-16 17:00-22:28 JST.

『METライブビューイング アンコール2016』で、 2010年から2012年にかけてカナダ・ケベックの演出家 Robert Lepage の新演出で上演された Richard Wagner: Der Ring des Nibelungen が一挙上演されたものを観てきました。

本来は序夜から第3夜の4夜に渡って上演されるものが、2夜ずつまとめて2日間での上映。 休憩時間込みで1日目は9時間余、2日目は11時間半近くということで、観終わったときは二日間にわたる耐久レースを完走したような気分でした。 休憩時間抜きの上演時間だけで15時間余りという長さで、良い場面もあれば、退屈も場面もあります。 全体として良かったかどうか、どうでもいいような気分になる長さでした。 Das Rheingold の中盤の城の建築費の支払いを Wotan が踏み倒そうとする所など退屈したし、 Die Walküre の第一幕、第二幕など、 こんなメロドラマティックなよろめき話や夫婦喧嘩に一幕も使うなよと思ったのは確か。 しかし、英雄の成長譚 Siegfried から 愛の裏切りと激しい復讐もメロドラマチックな Götterdämmerung になると、さほど退屈することはありませんでした。

一番楽しみにしていたのは、Robert Lepage の演出。 887 [鑑賞メモ] のような一人芝居というより、 むしろ、Cirque du Soleil: Totem [鑑賞メモ] に近い演出でした。 舞台を現代に置き換えるようなことはなく、衣装も普通に中世〜近世のヨーロッパを連想させるような具体的なもので、物語の解釈は比較的オーソドックスに感じました。 見所はなんといっても重た過ぎて劇場を補強する必要があったという、回転する24枚の厚板からなる45トンの舞台装置 “The Machine”。 一枚の板は幅60cm、長さ9mで、長辺に対する中央に回転軸があります。 板は一様な厚みではなく、片面はフラットでもう片面は回転軸の所を頂点とした、三角形の断面となっています。 舞台を横に横切るように回転軸が置かれ、それぞれの板が独立に回転・停止するだけでなく、回転軸自体が上下に動くようになっていました。 板を水平気味にしてその上にオペラ歌手を乗せて演技させたり、 板を垂直気味にして背景として使ったり。 これら24枚の板の傾きの組み合わせだけで岩場に見立てたり木々や建物に見立てたりすることも十分に可能だったとは思いま。 しかし、抽象度高めなものとはいえ板の表面にプロジェクションマッピンクをすることにより、ビジュアル的に鮮やかなものになっていました。

序夜 Das Rheingold のオープニング、 Rhinemaidens (ラインの乙女) の場面では、 ほとんど立った状態の “The Machine” の板の前に3人のオペラ歌手をワイヤで吊るしてヴァーティカル・シアター的な演出をしていました。 中盤、Wotan と Loge が Das Rheingold (ラインの黄金) を求めて地底の Nibelheim へ行く場面でも、 垂直という程ではないもののヴァーティカル・シアター的な演出でトリッキーに見せていました。 それほどではなくても、 Das Rheingold では斜めの板の上を駆け登らせたり滑り降りさせたりする場面も多く、 オペラ歌手にしてはかなりアクロバティックなことをさせており、凄いと感心しながら観ていました。 しかし、第1夜 Die Walküre 以降は、 アクロバティック演出は控え目になりプロジェクション・マッピング頼りの演出になってしまったように感じました。 Die Walküre の第3幕 “Walkürenritt” 「ワルキューレの騎行」などアクロバティックな演出が楽しめるんじゃないかと期待したのですが……。 やはり、オペラ歌手にそういうことをさせるのは無理があるということになったのでしょうか。

岡田 暁生 『オペラの運命』 (中公新書, 2001) [読書メモ] を読んで以来、 クラッシク音楽への関心ではなく20世紀の娯楽映画 (例えば Star Wars シリーズ) のルーツの一つという意味で、 Der Ring des Nibelung は一度は観ておきたいと思っていたので、やっとその宿題を果たすことができました。 家でDVDで観るなんて到底集中できないと腰が引けていましたし、 Robert Lepage のような好みの演出家の演出じゃなかったら4部作15時間通して観てられなかっただろうとも思います。 今回のライブビューイングでのまとめ観は良い機会でした。

このような長丁場の上映の場合、食事をどう取るかが悩ましいわけですが、今回は弁当を持ち込みました。 実は、最近よくライブビューイングへ行くようになり、弁当を持参している人がいることに気付いて、これは使えると思っていたのでした。 劇場と違い映画館では客席での飲食が可能というのも、ライブビューイングの良さかもしれません。 弁当を買いに東劇に近い銀座のデパート地下街に行ったところ、「観劇弁当」が売られているこをを知りました。 これは、おそらく歌舞伎の観客向けなのでしょうか。 これがまさにうってつけ。弁当ながら美味しい食事を楽しむことができました。