イギリス軍の軍用馬として第一次大戦に従軍した馬 Joey を主人公とし、 Joey を育ててくれた少年 Albert との関係を一つの軸に、Joey の戦場でのエピソートを描いた、 1982年に出版された児童文学の舞台作品化。 2007年の初演以来、ロングランのヒットとなり、アメリカ・ブロードウェイでも上演され、 2011年には Steven Spielberg が映画化しています。(原作、映画ともに未読/見ですが。)
The Guardian 紙のレビュー欄でも度々取り上げられ、 南アフリカのパペット・カンパニー Handspring Puppet Company による実物大の馬のパペットを使ったステージという点が、気になっていました。 しかし、2014年に来日公演した東急 Theater Orb はその当時チェックしていなかった劇場で、 主にミュージカルの文脈で紹介されていたこともあって、公演に気付かずに見逃し。 今年5月に観た William Kentridge 演出の Handspring Puppet Company: Ubu and the Truth Commission は大掛かりにパペットを使った作品ではなく [レビュー]、 やはり War Horse を観たいと思っていたのでした。 そんなところに National Theatre Live のアンコール上映があったので、観ることにしたのでした。
直径10mほどの円形に近い舞台で、円形に区切られた部分は回転するようになっていました。 後方の上方には破り取られたスケッチブックの紙を模した形のスクリーンがあり、 そこに場面の象徴するようなドローイングが投影される程度。 大きな舞台装置は使わずに、パペットや俳優の演技とライティングのみで、 イングランド・デヴォンののどかな農村や地獄のような第一次大戦の西部戦線の戦場を描き切っていました。 心理描写にはストップモーションやスローモーションも利用。 特にライティングの巧みさには感心しました。 シンプルな話だけに、シンプルな演出が生きていました。 ちなみに、演出の一人は The Curious Incident of the Dog in the Night-Time [鑑賞メモ] と同じ Marianne Elliott。 今回はプロジェクションマッピングは使っていませんでしたが、身体表現を駆使して空間を描くのが巧い演出家なのでしょうか。
しかし、見所は、やっぱり実物大の馬のパペット。 馬の銅の下、前足側と後ろ足側の2名が入るのですが、人間の脚をそのまま馬の脚とはせずに、 より実際に近い形状構造で作られた四脚を操っていました。 首は横に付いた操り手が動かしていました。 その動きが巧みで、リアルというよりも、馬のセリフが無いのにもかかわらず馬が語りかけてくるよう。 登場人物も雄弁に内容を語ることなく、むしろ、accordion を伴奏とした folk 的な詠唱を随所に入れて、余韻で語るような舞台でした。 これは、やっぱり舞台で生で観たかったなあ、と、つくづく思いました。
ストーリーとしては心の交流、離別と再会といったものをテーマとした児童文学のよくありそうなもの。 もしくは、出征した青年と従軍看護婦となって彼を追いかけた恋人を主人公とした戦場メロドラマみたい、などと思いつつも、 巧みな馬のパペット使いもあって思わず感情移入して、涙しつつ観ることになってしまいました。