Royal Opera House Cinema Season 2016/17 のバレエ第一弾は、Anastasia。 1920年に記憶喪失の自殺未遂者として精神病院に収容された “Anna Anderson” が、 一部の強い支持者もあり、ロシア革命で行方不明となったロシアの皇族の1人 Anastasia を自称するようになった、という実話に基づく作品です。 (ちなみに、この作品が作られてから20年余り経ったソ連崩壊後、ロシア皇族は処刑されたことが明らかとなり、彼女の死後のDNA鑑定でも Anna が Anastasia では無かったことが確認されています。) 振付は Kenneth MacMillan。 1967年に Deutsche Oper, Berlin で Anna のいる精神病院を舞台とした第3幕のみの1幕物の作品として初演された後、 Royal Opera House の芸術監督となった Macmillan が1971年に第1、2幕を追加しています。 ベルリンで制作されたということもあり第三幕はトイツ表現主義的で、 追加された第1、2幕は Royal Opera House らしくクラシカルな作風となったことが知られています。 去年末に MacMillan 版の L'Histoire de Manon を観て [鑑賞メモ]、 クラシカルな物語バレエは自分の今の好みからは外れるだろうと思いつつも、 ドイツ表現主義と言われる第3幕への興味で、足を運んでみました。
スチールパイプの簡素なベッドのみの舞台で、Anna を演じるボサボサの短髪にグレーのワンピースパジャマ姿の Natalia Osipova が 革命の前の幻影と革命の亡霊に苛まされるように踊る様は、確かに内面を演じる表現主義的と感じるもの。 しかし、例えば Dore Hoyer: Afectos Humano [鑑賞メモ] のように文脈から切り離した抽象的な感情として表現するのではなく、 クラシカルに演じる幻影や亡霊を演じるダンサーと共に、そのリアクションとしてのように踊るという点でもかなり物語的。 トゥシューズを履いてバレエもイデオムを感じる踊りで、あくまで物語バレエがベースにあって、 内面描写に表現主義的な動きも取り入れたもののように感じられました。 しかし、やはり第3幕があっての Anasitasia。 不穏な電子音のみから始まって10分程経った頃からオーケストラが湧き上がってくるという音楽使いの緊張感もよく、見応えがあって、最も印象に残った幕でした。 第3幕の Anastasia / Anna Anderson の記憶/妄想の中の登場人物に深みや説得力を付けるという点で、第1、2幕が不要とまでは思いませんが、2幕もあるのは少々冗長に感じました。 L'Histoire de Manon でも最後の沼地の場面だけ現代的に感じられたのですが、 過去の幻影が現れる演出といい、Anastasia での演出手法を踏襲したもの。そういう点も興味深く観れました。
Björk にも少々似た顔立ちの Natalia Osipova は少女 (Anastasia) / 狂女 (Anna Anderson) 役にぴったりでしたし、 Mathilde Kschessinska を演じた Marianela Nuñez の華やかさも印象に残りましたが、 実は今回観に行った一番のお目当ては第一皇女 Olga 役の Olivia Cowley。 去年の秋頃に彼女の運営しているブログ Ballet Style や Instagram (@missolivia) を を知って、それ以来楽しんできていたので、ぜひ出演している作品を観たいと思っていたのでした。 はたして見分けが付くか少々自信が無かったのですが、すぐに判りました。 なかなか素敵ではなないですか。これからも応援したいものです。