今年観た event cinema (ライブビューイング) が演劇とオペラばかりでバレエを観ていなかったうえ、 最近 L'Opéra National de Paris の event cinema を観る機会が無いと思っていたところ、 去年のエトワール Aurélie Dupon の引退公演の上映に気付いたので、観てきました。 演目は L'Histoire du Manon。 原作は Abbé Prévost: L’Histoire du Chevalier des Grieux et de Manon Lescau (1731) で、 Jules Massenet 作曲でオペラ化 (Manon, 1884初演) されています。 その物語を、オペラの曲ではないけれども Massenet の曲を使って1974年に Kenneth MacMillan がバレエ化した作品です。 オペラも観ていませんし、バレエも観るのは初めて。
現代的な作品に挑戦し続けていた Sylvie Guillem [鑑賞メモ] ほどの思い入れが Aurélie Dupon にあるわけでなく、 20世紀の作品とはいえクラシカルな演出の物語バレエ (narrative ballet) で Christopher Wheeldon [鑑賞メモ] のような現代的な演出も楽しめるわけでもなく (第3幕は少々現代的でしょうか)、 やはり、現代的な非物語バレエ (non-narrative ballet) [鑑賞メモ] の方が好みと確認したような所も。 しかし、それでも予想以上にメロドラマ的な物語がツボにはまり、 メロドラマ映画を観るように楽しんで観ることができました。 これもオペラのメロドラマ性を継承しているのでしょうか。
Madame の衣装が Robe à la française [鑑賞メモ] に基づいているなど、 衣装や舞台美術は原作の18世紀に合わせた Rococo 調がベースにあるように見えました。 しかし、原作では騎士であった Des Grieux が若い学生という設定になって、 騎士対放蕩貴族の話が、貧乏学生対富豪という19世紀的な話に置き換えられているよう。 そこがメロドラマ的な面を強調しているように感じられました。 1週間前に Hedda Kabler を観たばかり [鑑賞メモ] だったので、 Manon と Hedda が、Des Grieux と Lövborg が被って見えました。
戦前松竹メロドラマ映画なら、Manon が桑野 通子、Des Grieux が佐分利 信、Lescaut が河村 黎吉 かなーと思っつつ、 それって『男の償ひ』 [鑑賞メモ] の冒頭部分じゃないかと思い至ったり。 佐分利 信 ら松竹三羽烏は看板女優の相手役とはよく言われたものだけれども、 なるほと、Aurélie Dupon のようなエトワールな女性ダンサーと Pas de deux で組む男性ダンサーのようなものかと、腑に落ちることしきりでした。 戦前松竹「メロドラマ」映画と言うものの、そう言われているから使っていた面が強く、 何が「メロドラマ」なのか、19世紀的なメロドラマとの連続性はあるのか、いまいちわかってなかったのですが、 event cinema でオペラやバレエを気楽に観るようになって、腑に落ちることしきり。 やはり、古典を知ると楽しみ方が深まります。 まあ、戦前松竹メロドラマ映画をある程度まとめて観たおかげで、19世紀オペラ・バレエに対する敷居が下がったというのもありますが。
しかし、現在、L'Opéra national de Paris で上演中なのは Jiří Kylián。 Instagram に流れてくる写真を見ながら、 こちらの方が観たいなあと思うことしきりです。 こういう作品も event cinema にして上映してくれたらなあ、と。