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Review: Metropilitan Opera, Robert Lepage (prod.), Kaija Saariaho (comp.): L'Amour de loin 『遥かなる愛』 @ Metropolitan Opera House (オペラ / event cinema)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2017/1/24
Metropolitan Opera
『遥かなる愛』
from Metropolitan Opera House, 2016-12-10.
Composer: Kaija Saariaho. Librettist: Amin Maalouf.
Stage Director: Robert Lepage. Set, Costume and Props Designer: Michael Curry.
Cast: Susanna Phillips(Clémence), Tamara Mumford (The pilgrim), Eric Owens (Jaufré Rudel), etc.
Conductor: Susanna Mälkki.
A coproduction of the Festival d’Opéra de Québec and The Metropolitan Opera, in collaboration with Ex Machina
World premiere: 15 August 2000 at the Salzburg Festival. Premiere of Ex Machina production: 5 July 2015 at Grand Théâtre de Québec
上映: 東劇, 2017-01-21 18:30-21:20 JST.

以前に Metropolitan Opera で Richard Wagner: Der Ring des Nibelungen [レビュー] を演出したことのある Robert Lepage が、 新たに演出を手がけた現代オペラ。 この L'Amour de loin を2015年の『コンポージアム』で演奏会形式で聴いたときはあまり楽しめなかったのですが [レビュー]、 Lepage によって演出された舞台作品として観たらどうなるのだろうという興味もあって、 METライブビューイング2016-17 での上映を観てきました。

演出された舞台でオペラ歌手の演技を観ながら聴いていると、演奏会形式で聴き取るのとは違って、 音楽が自然に入ってくるというというか、音楽の構造がちゃんと見えてくるよう。 例えば、ソリストの歌に対して、コーラスがツッコミを入れるような形になっていて、 時にはコーラスにソリストが反論するよう。 こんな面白いコーラスが付いていたのか、と気付かされました。 Jaufré が Clémence を歌った劇中歌と地の曲とニュアンスの違いも聴こえてきました。

LED 3万個使った演出が話題となった作品ですが、 LEDを連ねたリボンを何十本と舞台横方向に並べて張って、それぞれを色を変えたり点滅させることで、時間よって様々な色にきらめく海を表現していました。 また、LEDのリボンで舞台の床がほとんど見えなくなり、波間に消えるような演出も可能となっていました。 といっても、前半はあまり動きが無くさほどでもなかったのですが、後半はぐっと良くなりました。 LEDのリボンを上下に動かしての後半冒頭のうねる大海原の演出もダイナミックでしたが、 Jaufré が行く暗く凪いだ夜の海の上に青白くライトアップした Clémence が幻影のように浮かび上がるような演出が、 まるでコンピュータグラフィックで合成したかのような不自然な見え方。 そんな Lepage ならではの光によるトリッキーな演出を楽しむことができた。。

事前にウェブサイトやフライヤのスチル写真で見ていた Clémence の衣装や髪型(ウィグ)は、 Jaufré 理想の女性がこれかと、不吉な予感がしていました。 しかし、Susanna Phillips の演技、というか、表情が良かったのか、実際に動いている様子を見ていると、とても可愛らしく見えました。 銀の鱗のようなワンピースドレスは、特定の時代を感じさせるものではなく、背景の光の海もあってSF的。 大きな舞台装置も、シーソー状に可動する金属製の足場のみを用い、抽象的に情景を表現。 Jaufré や巡礼者の衣装こそヨーロッパ中世風とも取れるものでしたが、そんな中では、SFの中での擬古的なデザインのように見えました。

演奏会形式で聴いたときは脚本の十字軍時代の地中海世界という舞台設定と音楽の形式にギャップを感じてしまい物語の世界に入れませんでした。 しかし、Lepage 演出では、抽象的で特定の場所時代を感じさせないビジュアルに 現代音楽にしてはとっつきやすいとはいえ特定の場所時代を感じさせない Saariaho の音楽がマッチしていて、 むしろ、十字軍時代の地中海世界という設定とは関係無い、遠距離恋愛の物語として自然に楽しむことができました。