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Review: The Music Of Kaija Saariaho — L'Amour de loin (Concert Version with Images) (concert) @ Tokyo Opera City Concert Hall: Takemitsu Memorial, Tokyo
2015/05/30
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
The Music Of Kaija Saariaho — L'Amour de loin (Concert Version with Images)
東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル, 初台
2015/05/28, 19:00-21:40
Kaija Saariaho (comp.), Amin Maalouf (libretto): L'Amour de loin (Concert Version with Images) 『遥かなる愛』 (オペラ 演奏会形式) (2000).
Ernest Martinez-Izquierdo (conductor), 与那城 敬 [Kei Yonashiro] (baritone: Jaufré Rudel), 林 正子 [Masako Hayashi] (soprano: Clémence), 池田 香織 [Kaori Ikeda] (mezzo soprano: Le pèlerin [巡礼者]), 東京混成合唱団 [Tokyo Philharmonic Chorus], 大谷 研二 [Kenji Otani] (chorus master), 東京交響楽団 [Tokyo Symphony Orchestra], Jean-Baptiste Barrière (visual part conception & direction),

現代音楽 (contemporary classical) の作曲コンペに合わせて開催されるコンサート『コンポージアム』。 今年の審査員はフィンランド出身の Kaija Saariaho。 彼女についてはよく知らなかったけれども、ノンフィクション 『アラブが見た十字軍』 (Les Croisades vues par les Arabes, 1986) で知られるレバノンの作家 Amin Maalouf が脚本を手がけたオペラという所に興味を引かれて、観に行った。 2000年の初演時は Peter Sellars の演出で上演されたが、 今回は IRCAM 等で活動してきたマルチメディアアーティスト Jean-Baptiste Barrière の映像を伴う演奏会形式だった。

十字軍時代の12世紀南仏アキテーヌはブライユ (Blaye, Aquitaine) の吟遊詩人 (troubadour) Jaufré Rudel の伝説に基づく物語。 Rudel は巡礼者たちからその美徳を噂を聞くレヴァントのトリポリ (Tripoli) の伯女 (countess) Clémence (元の伝説では Hodierna) への愛を抱く。 Clémence を歌った歌は巡礼者を通して彼女にも届き、やはり南仏トゥールーズ (Toulouse) 出身の彼女の心を打つ。 Rudel は彼女に会うために十字軍に参加してトリポリへ向かうが、トリポリに着いたときは瀕死の状態、 Clémence の腕の中で息絶える。Clémence は修道院に入り Rudel への祈りを捧げる、というもの。 Maalouf 台本ということで「アラブが見た」視点の物語も期待したのだが、そうで無かったのも、少々肩透かし。

Olivier Messiaen のオペラ Saint François d'Assise (1983) に影響を受けたということだそうだが、それについてはよく判らず。 調性のはっきりしない音楽ながらフルオーケストラに合唱団にサンプリング的な electronics まで使った豪華な音楽に、この物語が少々浮いてしまったよう。 会ったことも無い女性に恋慕を寄せたり、会ってすぐ死んでしまう設定すら深みがあるというより滑稽に感じられてしまった。

クラシックではなくワールドミュージックの文脈の音楽だが、 南仏オクシタニアのトルバドゥールとトルコ・アナトリアのアシク (aşık) という 2つの吟遊詩人の伝統に橋をかけるプロジェクト Forabandit [レビュー] も、 Jaufré Rudel の “Amor de luenh” を取り上げている (オック語だが、“L'Amour de loin” と同じく「遥かなる愛」の意)。 少々荒唐無稽な所もある伝説は、フルオーケストラの音楽より、 この Forabandit のような打楽器の伴奏程度で mandole や bağlama で弾き語りした方が説得力を感じるようにも思った。 (自分の好みもあると思うが。)

映像は地中海や十字軍を連想させるモチーフに、歌手の顔をライブで半ば抽象的に合成するというもの。 演奏会形式だったけれども、聴きながら物語の世界へ入る助けにはなったかもしれない。 しかし、Peter Sellars による演出の舞台作品として観たら、物語に説得力を感じたかもしれないとも思った。