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Review: 成瀬 巳喜男 (dir.) 『女人哀愁』 (映画)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2017/05/03

神保町シアターのゴールデンウィーク特別興行 『映画監督・成瀬巳喜男 初期傑作選』から、 この映画を観てきました。

『女人哀愁』
1937 / PCL=入江ぷろだくしょん / 白黒 / 74min.
監督: 成瀬 巳喜男.
入江 たか子 (河野 広子), 堤 真佐子 (妹 よし子), 北沢 彪 (堀江 新一), 沢 蘭子 (妹 洋子), 大川 平八郎 (益田 敏雄), 佐伯 秀男 (北村 良介), etc

父を早くに亡くしデパートのレコード売り場で働く河野 広子は、裕福な堀江家の 新一 と見合い結婚する。 家の体面を重視する堀江家は、嫁の広子を女中もしくは飾りの人形のように扱う。 義妹 洋子はサラリーマンの益田と駆け落ちするが、愛はあれど金の無い生活に嫌気がさし、家に戻ってくる。 愛する彼女を取り戻そうとする益田に対して冷淡な堀江家を見るうちに、広子は堀江家での生活に不満を覚えるようになる。 洋子との生活のために会社の金を持ち逃げしていたことがばれた益田は、最後に洋子に会いたいと、広子に連絡を取る。 洋子は反省して益田に会いに行こうとするが、新一はそれを止めさせる一方、益田の居場所を広子から聞き出そうとする。 広子は新一に逆らい、新一に益田の居場所を伏せ、洋子を益田のもとへ行かせて、堀江家を出る。

松竹からPCL (後の東宝) へ移籍した後、当時のスター女優 入江 たか子 を主演にして撮ったトーキー映画。 いわゆるメロドラマチックな三角関係などはなく、身分違いの不幸な結婚の話で、 サイレント時代に成瀬が撮った『限りなき舗道』 (松竹蒲田, 1934) [レビュー] を思わせる所も。 もしくは、山本 薩夫 (dir.) 『母の曲』 (東宝, 1937) [レビュー] から母ものの部分を取り去ったよう。 しかし、『限りなき舗道』や『母の曲』が女性の我慢や諦めによって話を締めくくるのに対し、 『女人哀愁』は不幸な結婚生活からの女性の自立として描いています。 中盤くらいまでの優柔普段で自分の意思を出さ無いヒロインは感情移入し難いものがありましたが、 それだけに終盤のヒロインが美しく凛々しく見えたでしょうか。

ところで、映画の中で2回、鍵となる場面でスタンダードナンバーとして有名な Rogers & Hart の “Blue Moon” が使われていました。 最初はお嫁に行く直前、広子が「私だってダンスできる」と、妹よし子と踊る場面。 そして、二度目は堀江家での生活がうまくいかなくなってから、母を見舞いに実家に行った場面で、結婚前の思いを回想しつつ。 “Blue Moon” というと、自分にとってはジャズのスタンダード曲としての、もしくは、Elvis Presley などの1950s-60sのカバーでの印象が強く、 オリジナルは戦間期と頭では判っていても、少々違和感を覚えました。 ちなみに、オリジナルは映画 Manhattan Melodorama (MGM, 1934) の劇中歌 [YouTube]。 オリジナルから3年後に使っているということは、当時としてはアメリカの新しいヒット曲を取り上げたに近かったのでしょうか。